吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、鳥飼総合法律事務所の代表弁護士である鳥飼重和先生の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第29回 独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)「優越的地位の濫用」

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 伊東祐介

吉永弁護士 こんにちは、安斉社長。ご無沙汰しています。

弁護士の吉永です。

安斉社長 ああ、吉永先生じゃないですか! どうもお久し

ぶりです。どうしたのですか。先生がわざわざお越しくださ

るとは……。あっ! ひょっとして当社が訴えられたとか。

先生、助けてください!

吉永弁護士 いえいえ。そのようなことはないのですが、最

近ご連絡がなかったものですから、どうされているのかと思

いまして、近くに来たついでにお伺いしました。経営のほう

はいかがですか? 増税の影響は大丈夫ですか。

安斉社長 何だ、脅かさないでくださいよ~。びっくりして

しまったじゃないですか(笑)。

 おかげさまで、増税の影響はいまのところ当社にはありま

せんよ。……ただ、当社の製品を納入している百貨店のひと

つが、増税の影響を気にしてか、当社にいろいろと乱暴な要

求をしてきて困っているのですよ。

吉永弁護士 あら、それは大変ですね。どのような要求を受

けているのですか?

安斉社長 それがですね……。先月売れなかった商品を当社

に引き取ってほしいとか、マネキンに着せていた商品が汚れ

たから返品するとか言ってきているのですよ……。

 まあ、このご時世、百貨店もいろいろと大変なのでしょう

ね。ハハハハハ。

吉永弁護士 えっ! そんな無茶なことを言われているので

すか。それで、御社はどうされるのですか。

安斉社長 いや~、一度は断ったのですが、先方から「当店

と取引を続けたいのなら、応じてもらわないと困る」なんて

言われちゃいましてね。

 この百貨店は当社にとってはかなり大口の取引先で、取引

できないとなるとさすがに大変なことになります。仕方ない

から返品にも応じるつもりですよ。

吉永弁護士 ……安斉社長、その要求に応じる必要はありま

せんよ。これは優越的地位の濫用に該当し、違法となる可能

性があります。

安斉社長 えっ、そうなのですか。その……、ユウエツなん

ちゃらっていうのは何なのですか?

吉永弁護士 「優越的地位の濫用」といって、独占禁止法で

禁止されている行為です。自己の取引上の地位が相手方に対

して優越であることを利用して、正常な商慣習に照らして不

当な行為をすることをいいます。「優越的地位の濫用」に該当

するかどうかは、優越的地位にあるか、不当な行為があるか

がポイントになります。

安斉社長 その優越的地位にあるかという点と、不当な行為

があったかという点は、どのような場合に認められるのです

か。

吉永弁護士 優越的地位にあると認められるためには、取引

の相手方が取引先をほかに変更することが困難で、相手方に

とって著しく不利益な条件でも受け入れざるを得ないような

場合をいいます。

安斉社長 なるほど。それなら当社とあの百貨店との関係に

該当しそうですね。

吉永弁護士 ちなみに、「正常な商慣習に照らして不当」な行

為があったといえるかですが、これは個別の事案によって判

断されることになります。

 安斉社長から詳しくお話を聞く必要がありますが、今回の

場合、不当行為に該当する可能性が極めて高いと思いますよ。

安斉社長 そうなのですか。でも、そうはいっても、百貨店

にそのようなことは言えませんよ。変に目を付けられたら、

業界のなかでやりにくくなりますから……。

吉永弁護士 安斉社長!

安斉社長 は、はいっ!?

吉永弁護士 泣き寝入りはダメですよ。おそらく、社長以外

にもその百貨店の要求で泣いている方がいるのではないです

か。そのような行為は許されないことです。

 御社が直接百貨店に抗議しなくても、公正取引委員会に申

告する方法や、弁護士から百貨店に通知する方法など、いろ

いろなやり方があります。

 私が力になりますので、不当な要求は断ってください。

安斉社長 うーん……。

吉永弁護士 ……。

安斉社長 吉永先生、分かりました。実は百貨店の高圧的な

姿勢に、私も内心忸怩たる思いをしていたのです。

 この百貨店には、当社もこれまでずいぶん協力してきまし

た。それなのにこんな仕打ちをするとはひどいですよ。で

も、相手が取引先なので仕方がないと思っていました。

 ぜひ力になってください。お願いします。

吉永弁護士 お任せください! それでは、もっと詳しく状

況を聞かせていただきたいと思います。まず……。

【解説】

 優越的地位の濫用として問題となる行為とは、「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」行われる、独占禁止法第2条第9項第5号イからハまでのいずれかに該当する行為のことをいいます。

 本事例のケースは独占禁止法第2条第9項第5号ハに該当する可能性があります。この条文には、「受領拒否」、「返品」、「支払遅延」および「減額」が優越的地位の濫用につながり得る行為の例示として掲げられていますが、それ以外にも、取引の相手方に不利益を与えるさまざまな行為が含まれます。

取引上の地位が相手方に優越している事業者が、取引の相手方に対し、当該取引の相手方から受領した商品を返品する場合、以下の2つの要件が充足されると正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることになり、優越的地位の濫用として問題になるとされています。

①どのような場合に、どのような条件で返品するかについて、当該取引の相手方との間で明確になっておらず、当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることになること

②その他正当な理由がないのに、当該取引の相手方から受領した商品を返品する場合であって、当該取引の相手方が、今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ないこと

 なお、「優越的地位の濫用」については、公正取引委員会から「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」や「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」というガイドラインが出されています。詳細を知りたい方はそれらのガイドラインを確認してください。