吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、鳥飼総合法律事務所の代表弁護士である鳥飼重和先生の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第30回 消費税転嫁対策特別措置法

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 久保田真悟

安斉社長 お電話代わりました。安斉です。

吉永弁護士 もしもし。弁護士の吉永です。

安斉社長 ああ、先生ですか! どうもご無沙……ん? 先

月お会いしたばかりですよね(5月号を参照)。ひょっとし

て、当社がまた何かやらかしてしまったのですか? 助けて

ください、吉永先生!

吉永弁護士 いえいえ。そういうわけではないのですが、ふ

と安斉社長のことを思い出しましたので、どうされているの

かと思いまして。不思議ですね。2カ月連続で思い出すので

す。

 それはさておき、その後、会社のほうはいかがですか?

安斉社長 なんだ。驚かさないでくださいよ~。

 そうですね。特に問題はないですよ。まあ、強いていえ

ば、3月末までは消費税増税前の駆け込み需要で春物衣料が絶

好調だったのですが、今は当時の勢いはなく、前年同期と比

べても売上が上がっていない状態です。

吉永弁護士 まあ、そうですか。アパレル業界にも増税の影

響が出ているみたいですね。

安斉社長 はい。でも悲観はしていないのですよ! 苦しい

のはみんな一緒ですし。それに、仕入先の業者も協力して増

税後も増税前と同じ価格で取引してくれているのです。これ

こそ「絆」ですよね!

吉永弁護士 そうですね! みんなで支え合って苦境を乗り

越える! 日本人の美徳ですね! って、安斉社長……。や

はり、またやってしまわれたのですね。

安斉社長 ええっ(ドキッ)、何がまずいのですか??

吉永弁護士 社長がなさったことは、消費税率引き上げ前の

対価に、消費税率引き上げ分を上乗せした額よりも低い対価

を定める行為として、消費税転嫁対策特別措置法が禁止する

「買いたたき」に該当するおそれがあります。

安斉社長 そんな! 買いたたきだなんてめっそうもない。

別に買いたたいてるわけじゃないですよ。仕入先だってそれ

でいいって言っているのですから。

吉永弁護士 もちろん、合理的な理由があれば、消費税率引

き上げ分を上乗せした額よりも低い対価を定めることも許さ

れます。しかし、ただ単に仕入先の承諾が得られているとい

うだけで、当然に合理的な理由があるとされるわけではあり

ません。

安斉社長 そんな……。その、合理的な理由というのはどの

ような場合に認められるのですか。

吉永弁護士 合理的な理由が認められるためには仕入先の原

材料費が安くなっているなど、従前通りの価格を維持するこ

とが合理的と認められる事情が必要になります。この点を仕

入先に確認しているのですか?

安斉社長 ……。いいえ、確認していません。

吉永弁護士 もっとも、すべての事業者が消費税転嫁対策特

別措置法の対象となるというわけではありませんので、その

点も確認したほうがよいですね。

安斉社長 そうですか、これから大至急確認します‼ いや

~、今回も本当に助かりました。

吉永弁護士 安心するのはまだ早いですよ。この法律が禁止

しているのは、先ほど申し上げた「買いたたき」だけではあ

りません。他にも、「減額」、「商品購入、役務利用又は利益提供の要請」など、禁止されている行為があるので、この点の

確認も忘れないでくださいね。

安斉社長 うーん。いろいろあるんですね。

吉永弁護士 そうですね。この法律で注意しなければならな

いのは、安斉社長がそうであったように、自分では違法な行

為をしている自覚がなかったとしても、結果的に違法な行為

をしているおそれがある点です。

安斉社長 確かに……。先生からご指摘を受けるまでまった

く気が付きませんでした。

吉永弁護士 これからは気を付けてくださいね。それではま

た!(ガチャ)

安斉社長 ありがとうございました! ……ふう~。びっく

りした。何はともあれ、今回も危ないところを指摘していた

だいて助かった。吉永先生には「やらかしたセンサー」でも

付いているのかなあ。

【解説】

 消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法(通称:消費税転嫁対策特別措置法)が平成25年10月1日より施行されました。この法律は、消費税率の引き上げに際し、特定事業者による消費税の転嫁拒否等の行為を迅速かつ効果的に是正するための特別措置など、所要の法整備を講ずることにより、消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保することを目的として制定・施行されたものです。

 この法律の適用対象となる事業者は、おおよそ下表のとおりです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 本法律の適用対象となる事業者に該当すると、同法第2章により、本編で取り上げた「買いたたき」の他、「減額」、「商品購入、役務利用又は利益提供の要請」、「本体価格での交渉の拒否」、「報復行為」などの行為が禁止されることになります。これらの違反行為をしてしまいますと、報告・検査、指導・助言、措置請求、勧告・公表といった措置がとられるおそれがあります。本編で吉永弁護士が説明していたように、自分では違法な行為をしている自覚がなかったとしても、結果的に違法な行為をしてしまっているおそれが高い点に注意が必要です。

 公正取引委員会、財務省および消費者庁からそれぞれガイドラインが出されていますので、そちらもご参照ください。

特定供給事業者(転嫁拒否等をされる側)

(売り手)

特定事業者(転嫁拒否等をする側)

(買い手)

 

 

大規模小売事業者に継続して商品または役務を供給する事業者

大規模小売事業者(規則で定義される)

1

・資本金等の額が3億円以下の事業者

・個人事業者等

右欄の特定供給事業者から継続して商品

または役務の供給を受ける法人事業者

2

 

 ああ、先生ですか! どうもご無沙……ん? 先