吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、鳥飼総合法律事務所の代表弁護士である鳥飼重和先生の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第31回 こっそりあげたい財産はどうすればいい?

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 小西功朗

吉永弁護士 どうもお待たせしました。山縣社長、お久しぶ

りです。

山縣社長 おお、吉永先生! 今日もよろしく頼みますぞ。

 実は折り入ってお願いがあるのじゃ。先生だけが頼りなの

じゃ!

吉永弁護士 ど、どうされたのですか社長、改まって。何か

あったのですか?

山縣社長 うむ、実は個人的なことなのじゃが……。以前に

相談させてもらった遺言書のことで、ちょっと困ったことに

なってしまってのう……(第5回参照)。

吉永弁護士 ええと、確か、「ある女性」に財産を遺してあげ

たい、というお話でした、よね……?

山縣社長 せ、先生。声が大きいですぞ! (小声で)もう少

しお静かに……。

吉永弁護士 あ! す、すみません。(小声で)それで、遺言

書をお書きになったと聞いていましたが、何か問題が起きた

のですか?

山縣社長 うむ……。株の贈与も終わって固定合意もまとめ

(第1回参照)、遺言書も書いてこれで万全と思っていたのじ

ゃが、子供たちに遺言書を見せなければならなくなってしま

ったのじゃよ。

吉永弁護士 えっ!? 祐一さんたちと何かあったのですか?

山縣社長 し、静かにしてくだされ。……いや、別にトラブ

ルがあったわけではないのじゃ。ただこの間、久しぶりに祐

一や咲子と食事をしていて、2人がわしの体を気遣ってくれ

たものじゃから、ついつい「心配するな、仮に万が一のこと

があっても後のことは大丈夫じゃ」と言ってしまったのじゃ

よ……。

吉永弁護士 ……それで、ついポロっと、「遺言書もある」と

言ってしまったと。

山縣社長 ハハハハハ。……その通りじゃ。そうしたら祐一

が、「それは安心だね。でも、どこにあるのか分からないと困

るから、場所を教えてもらえないかな」と言いだしてのう。

吉永弁護士 祐一さんが仰ることはごもっともですね。

山縣社長 さらに咲子が、「どうせなら中身も知っておいたほ

うがいいよね。2人とも生活に困っているわけではないし、

お父さんの意向を尊重したいから、みんなで情報を共有して

おいたほうがいいんじゃないかな」と言いだしてのう……。

吉永弁護士 まあ、立派なお子さんたちじゃありませんか。

……それで、遺言書を見せなければならなくなった、という

ことですか。

山縣社長 うむ、引っ込みがつかなくなってしまってのう

……。

吉永弁護士 うーん、それは仕方がないですね。女性のこと

を知られたくないのであれば、該当部分を削って遺言書は書

き換えるしかないでしょう。

山縣社長 ええっ!! そ、それでは彼女に何も残してやれな

いじゃないですか! 先生!! 何か方法は!!

吉永弁護士 お、落ち着いてください社長。声が大きいです

よ。

山縣社長 (小声で)おっと、わしとしたことが。

吉永弁護士 何か対策を考えてみましょう。そうですね

……。遺言書以外の方法で、となると、生命保険を使う方法

がよいかもしれませんね。

山縣社長 ほ、保険。保険ですな。それでは今すぐ保険会社

の人に来てもらおう!

 うおおおおお! ここが男気の見せどころじゃ!

吉永弁護士 社長、山縣社長! 少し落ち着いてください。

山縣社長 (小声で)おっと、わしとしたことが。

吉永弁護士 簡単にこの仕組みを説明しますと、法律上、受

取人を指定した生命保険金は、「遺産」ではなく、直接受け取

る人のものになるのです。ですから、「遺産」の分け方を決め

る遺言書とは全く別に、財産を遺してあげることができるの

です。お遺しになりたい額になるように、保険会社の方と相

談してみてはいかがでしょうか。

山縣社長 保険とはすごいものじゃのう! これなら子供た

ちに分からないように、彼女に財産を遺しておくこともでき

……。

吉永弁護士 ただし! 保険金の請求をする時に分かってし

まう可能性が高いですし、少なくとも相続税の申告をする時

には、お子さんたちに分かってしまいますよ。

 相続税の計算をするうえでは、保険金も計算しなければな

らないので、誰にいくら保険金を遺したのかは分かってしま

います。

山縣社長 むむ、そうですか……。

吉永弁護士 一般的には、遺産の範囲になると、遺留分の問

題や、評価の問題が出てきますので、そういった問題の出な

い保険金のほうがもめにくいとは思います。ただ、いずれに

せよ女性に財産を遺す、ということが今、お子さんたちに分

かってしまうのか、後で分かるのかの違いだけですから、そ

れを踏まえたうえで額を決めてくださいね。

 それから、相続税の申告をする時に、お子さんたちに説明

をしなければならない税理士の先生が困らないよう、あらか

じめご相談されておいたほうがよいと思いますよ。

山縣社長 ……ハイ。よく考えます。

*解説*

1.保険金の民法上の取り扱い

 保険金の受取人として、特定の人が指定されている場合、生命保険契約は第三者のためにする契約であり、その効果として受取人が生命保険金請求権を自己の固有の権利として取得(大判昭和11年5月13日)し、当該生命保険金請求権は相続財産には属さない。

 したがって、保険金は遺産分割の対象とはなりません。

 

2.保険金の税法上の取り扱い

 一方、税法上は保険金も、保険料のうち被相続人が負担した割合に応じて、「みなし相続財産」として相続財産として扱われ、相続税が課されます(相続税法3条1項1号)。保険金であれば相続税が課されないとなると、財産を保険金に代えてしまうことで、相続人に対し財産を遺しておきながら課税を免れるという課税逃れが横行してしまうので、それを防ぐためです。