吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、鳥飼総合法律事務所の代表弁護士である鳥飼重和先生の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第50回 スマホゲームがパクられた!

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 久保田 真悟

小野社長 吉永先生! 当社が制作したスマホゲームがパクら

れていることが分かったのです。何とかなりませんか!?

吉永弁護士 Oh‚ no!

小野社長 おっとそうきましたか……って、先生!

 今日は冗談を言っている場合じゃないんですよ! 真面目

に聞いてください!

吉永弁護士 フフフフ。これは失礼しました。

 それでは真面目にお話を伺うとして、「パクられた」というのはどういうことなのですか?

小野社長 当社は数年前にスマホゲーム「It’s mine」を制作

して、順調に売上を伸ばしていました。ですが、最近、当社

のものによく似たゲームが現れたのです。

吉永弁護士 なるほど。どのような部分が似ているのですか?

小野社長 はい。「It’s mine」は、ユーザーが国王となって、

国を統治しながら領土を拡大していくというゲームなんです

が、この企画内容がほとんど同じなのです。

吉永弁護士 それだけですか?

小野社長 それだけではありません。戦闘場面における画面

の内容がそっくりなのです。

吉永弁護士 なるほど。具体的にどの部分がそっくりなので

しょうか?

小野社長 登場する戦士や住民などのキャラクターの容姿、

お城の外形がそっくりです。

吉永弁護士 配置や配色はどうですか?

小野社長 だいたい同じだったような気がします。

吉永弁護士 そうですか……。確認をしてみなければ何とも

言えませんが……。著作権侵害、具体的には翻案権侵害、公

衆送信権侵害、同一性保持権侵害等を主張することができる

かもしれません。

小野社長 著作権侵害ですか?

吉永弁護士 そうです。一般にスマホゲームの映像は、映画

の著作物と同じという扱いで、著作権法で保護されていま

す。ですから、類似性と依拠性の要件を満たせば著作権侵害

となります。

小野社長 類似性と依拠性ですか……。これはどのようなも

のなのですか?

吉永弁護士 はい。

 要するに、相手方の作品が、(1)社長の著作物に似ているこ

と、(2)社長の著作物に依拠して作られたこと、という要件を

満たしていることが必要になります。

小野社長 なるほど。ただ似ているだけではダメなのですね。

吉永弁護士 そうです。結果的に似ているというだけではダ

メなのです。

小野社長 ちなみに、どのぐらい似ている必要があるのです

か?

吉永弁護士 難しい質問ですね。文学作品に関する翻案権侵

害の事例ですが、「著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる」という基準が示されています。

小野社長 ……すみません。何かつかみどころがないという

か……。

吉永弁護士 仰るとおりです。これだけ見ていても何も分か

りませんよね。

小野社長 はい……。

吉永弁護士 結局、個別の事案ごとに似ている部分とそうで

ない部分を比較しながら判断していくしかないので、どれぐ

らい似ていれば侵害になる、というのはなかなか一言では説

明できません。

 一度社長の会社で作ったゲームと、問題になっているゲー

ムを確認させてもらえませんか?

小野社長 分かりました! よろしくお願いします!

【解説】

 ゲームの映像は、著作権法上、「映画の著作物」(著作権法10条1項7号)として保護されています。

そのため、本件のように、制作したスマホゲームの映像が著作権者に無断で利用された場合には、著作権侵害を主張することが可能です。

 著作権には財産権的側面と人格権的側面があり、財産権には複製権、翻案権、公衆送信権等の権利が、人格権には公表権や同一性保持権等の権利が含まれています(同法17条以下参照)。本件では、小野社長の会社で制作したスマホゲームの映像によく似た内容の映像が他社の制作したスマホゲームで利用されているため、著作物を脚色等して二次的著作物を創作する権利である「翻案権」(同法27条)、創作された二次的著作物について公衆送信をする権利である「公衆送信権」(同法28条、23条)、著作者の意に反して変更その他の改変を受けない権利である「同一性保持権」(同法20条)等の権利侵害が検討されることになります。

 翻案の成否については、江差追分事件(最判平13年6月28日民集55巻4号837頁)において、(1) 言語の著作物の翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。(以下略)

(2) 既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分または表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらないと解するのが相当である。との判断基準が示されています。これは言語の著作物に関する判断ではありますが、他の著作物についても妥当するものであると考えられています。

 そして、釣りゲーム事件(知財高判平24年8月8日判時2165号42頁)では、かかる江差追分事件判決で示された判断基準に基づいて検討を行ったうえで、「原告作品の魚の引き寄せ画面と被告作品の魚の引き寄せ画面の共通する部分は、表現それ自体ではない部分または創作性がない部分にすぎず、また、その具体的表現においても異なるものであるから、これに接する者が原告作品の魚の引き寄せ画面の本質的な特徴を直接感得することはできない」などと判断され、原告の請求が棄却されました。

 翻案権侵害の有無については、個別の事案ごとに共通部分と相違部分の内容や創作性の有無または程度等から判断していくほかありませんが、検討に当たってはこれらの先例が参考になります。