吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、日本税理士会連合会顧問の鳥飼重和先生(鳥飼総合法律事務所)の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第62回 土地の価値

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 町田 覚

安斉社長 ここのところ、爆買いの恩恵を受けまして、衣料

品が売れるわ売れるわ、もう在庫も人手も足りません。その

おかげで前期から非常に会社の業績がいいんですよ。なの

で、役員報酬を上げまして……。

吉永弁護士 その報酬が高すぎないか、というご相談ですか。

安斉社長 いえいえ、そこらへんは大丈夫です。顧問税理士

に相談していますので。

吉永弁護士 では、今日は会社の業績好調のお裾分けを私

に?

安斉社長 いえいえ、そこらへんも大丈夫です。

吉永弁護士 あぁ、そうですか……。

安斉社長 会社はいまだに人も在庫も足らないのです。どち

らも増やそうと考えているのですが、会社内は人と物でいっ

ぱいで。しかも今の社屋はだいぶ傷んできていますし。

 そこで、思い切って新社屋を建てようかと思っていまして。

吉永弁護士 なるほど、それはいいですね。立派な建物にな

りそうですね。

安斉社長 ええ、立派にしますよ。今は、そのための土地を

探しています。場所としては、由緒正しく、広い土地にしよ

うと思っています。

吉永弁護士 どこかよい土地が見つかるといいですね。

安斉社長 ありがとうございます。いくつか候補の土地は既

に挙がっています。

吉永弁護士 土地は、その属する地域、地形、接している道

路の状況、勾配など、いろいろと気にしないといけないこと

が多いですからね。悩みも多いですね。

安斉社長 そうなんですよ。おかげさまで資金は潤沢なの

で、候補の土地はいずれも資金的には問題ありません。うれ

しい悩みですが、迷ってしまって仕事が手につきませんよ。

吉永弁護士 社屋だけでなく、場所も会社のイメージに影響

しますからね。それに、従業員の方々の通勤の利便性も考え

ないと、労使関係にも影響が出かねませんし、取引先との関

係も遠くなるとやりにくいとか、入社を希望する人にとって

は重要な考慮要素になりますからね。一度移動したら、なか

なか変えられませんし。

安斉社長 ……そ、そうですよね(そんなところまで考えて

なかった、余計に迷う……)。

 今は、××市○○町の土地にしようかと考えています。

吉永弁護士 ××市○○町、ひょっとして△△湖の近くのあ

の広い土地ですか?

安斉社長 よくご存じで。そのとおりです。あの辺りはいろ

いろな文化財も出土しているらしいです。テレビに出ている

ような歴史学者が発掘現場にいるのを見たと知人が言ってい

ました。

吉永弁護士 んー……。

安斉社長 その土地は知人が紹介してくれたもので、現在の

所有者は、「それだけ歴史的に重要な場所なので本来は高いの

だけれど、安斎社長の会社がその土地に社屋を建てるという

なら、格安で売却することを考えてもいい」と言ってくれて

いるらしいのです。

吉永弁護士 そうですか。気になりますねぇ。

安斉社長 何がですか? その土地がいくらか、ということで

すか?

吉永弁護士 いえ、どんな土地かです。

安斉社長 どういう意味ですか?

吉永弁護士 その土地は、これまでどのような状況だったの

ですか。

安斉社長 詳しくは知りませんが、大きな建物があったとか

そういうことはなくて、せいぜい何かの荷物や車が置かれて

いた程度らしいです。

吉永弁護士 買う前によく調べたほうがいいですね。

安斉社長 先生はいったい何を気にされているのですか。

吉永弁護士 その土地、ひょっとしたら、買ってもすぐには

建物を建てられないかもしれません。しかも、金銭的負担を

負わされる羽目になるかも。

安斉社長 えー!! どうしてですか!?

吉永弁護士 土木工事をしている際に埋蔵文化財が発掘され

ると非常に厄介です。

安斉社長 それだけの文化的な価値のある土地ではないんで

すか?

吉永弁護士 確かに、文化的には価値があるとは思います

が、建物が建てられるかどうかは別の話ですよ。

安斉社長 それは遺跡が発掘されたら建物は建てられないと

いうことですか?

吉永弁護士 埋蔵文化財について記録保存の発掘調査が必要

となると、その間工事に着手することができません。

安斉社長 本当ですか!?

吉永弁護士 しかも、その発掘調査の費用は土地の所有者が

負担することが多いのです。

安斉社長 そんな!

吉永弁護士 その土地の面積はどれくらいですか?

安斉社長 社屋と、倉庫と、駐車場も一緒に置けるように、

5000㎡くらいを基準に探したので、それくらいだと思います。

吉永弁護士 一概にはいえませんが、調査には1㎡あたり2万

円から3万円くらいかかるところもありますので、仮に5000㎡全てが対象だと、1億円から1億5000万円ということになりますかね。

安斉社長 その土地、やめます。よく考えたら、遠いし、交

通の便も悪いし、他の候補もあるし。いやぁ、危なかった、

助かりましたよ。

【解説】

 文化財保護法による規制

 埋蔵文化財を包蔵する土地として周知されている場所(周知の埋蔵文化財包蔵地)において土木工事などを行う場合には、60日前までに文化庁長官に届け出をしなければなりません〔文化財保護法(以下「法」といいます)93条1項、92条1項〕。

 また、周知の埋蔵文化財包蔵地でなくても、遺跡を発見した時は文化庁長官に届け出なければなりません(法96条1項)。

 土木工事などの届け出を行った際に埋蔵文化財の保護上特に必要があると判断された場合は、埋蔵文化財の記録作成のための発掘調査が行われます(法93条2項)。

 また、遺跡発見の届け出がされた際に、遺跡が重要なものであり、かつ、その保護のため調査を行う必要があると判断された場合は、現状を変更する行為の停止または禁止を命じられ、調査が行われます(法96条2項)。

 調査費用は事業者負担の場合が多く、調査期間は、当初予定していた土木工事に着手することはできません。

 もっとも埋蔵文化財の取り扱いについては自治体ごとに異なりますので、もしご懸念の場合は自治体にお問い合わせください。

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