吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、鳥飼総合法律事務所の代表弁護士である鳥飼重和先生の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第63回 職場における育児休業・介護休業等に関するハラスメント対策も事業主の義務です!!

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 加藤佑子

吉永弁護士 社長のお孫さん、そろそろ1歳になりますね。

安斉社長 おかげさまで、だいぶ大きくなりました。人から

聞いてはいましたが、孫っていうのは、ほんとうにかわいい

ものですね~。

吉永弁護士 「孫は目に入れても痛くない」なんて言います

ものね。

安斉社長 そのとおりです。それにしても驚いたのは、私の

息子が孫のおむつ替えや抱っこを率先してやっているんです

よ。

 私なんて、子どもの世話は妻に任せっきりでしたから。お

むつ替えをした記憶もほとんどないなあ。

吉永弁護士 息子さんイクメンなんですね。

安斉社長 時代は変わりましたな~。はっはっはっ!

 そうそう、時代が変わったといえば、この間、森田君とい

うわが社の働き盛りの男性社員が、1カ月の育休を取りまして

ねえ。男性社員の育休、わが社では初めてのことですよ。

吉永弁護士 世間では男性の育休取得を推進しようといわれ

ていますが、実際に実現できている会社はまだまだ少ないよ

うですよ。社長の会社は先進的ですね!

安斉社長 そう言われると気分がいいですね。

 でも、わが社で育休を取る男性社員が出るとは、内心ちょ

っとびっくりしたんです。頭では男性に育休を取る権利があ

ることは分かっていますけれど、私らが子育てをしていた

30年くらい前には、男性の育休なんて考えられませんでした

からね。

吉永弁護士 あら、内心びっくりだったのですね。

安斉社長 ええ。あ、もちろん、私は森田君の件について社

内で否定的なことは言わないようにしていますよ。

 ただ、私と同世代の社員のなかには、森田君に「昔は男が

育休を取るなんてありえなかったぞ」とか、「1カ月も休むの

はちょっと長いんじゃないか」とか言う者もいるみたいで

す。まあ、冗談交じりに言っている程度ですけれど。

吉永弁護士 冗談とはいえ、森田さんにとっては心地よい発

言ではないですね。それに、森田さんに続こうと思っている

他の男性社員の方が、職場でのそういった発言を聞いて、育

休を取るのを躊躇してしまうかもしれません。

安斉社長 確かに、そうですね……。

吉永弁護士 それと、最近、この件に関連した法改正があっ

たんですよ。育児・介護休業法が改正されて、育休等に関す

るハラスメント防止措置を取ることが、事業主の義務になっ

たのです。

安斉社長 え? 何ですか、その義務は?

吉永弁護士 例えば、上司や同僚などの育休に対する否定的

な言動などで、育休制度を使おうと思っていた社員が断念す

るようなことなどが起こらないよう、事業主は育休等に関す

るハラスメントを防止する措置を取らなければならないので

す。

安斉社長 ほう。具体的にどんなことをしなければならない

のですか。

吉永弁護士 厚生労働省が詳しい指針を公表していますが、

どのような言動がハラスメントに当たるのかを明確化して従

業員へ周知することや、相談窓口を設置することなどが挙げ

られます。

 ちなみに、森田さんの件について一部の社員の方がしてい

た否定的な発言も、冗談とはいえ、やはり許されるものでは

ないという会社の姿勢を示したほうがよいと思います。

安斉社長 なるほど。わが社に限ってハラスメントはないと

思いがちですが、気を付けないといけないですね。

 私自身も考え方をもう少し柔軟にしていかないと、これか

らの時代、社長業は務まりませんね。

【解説】

 改正育児・介護休業法について

⒈ 職場におけるセクシュアルハラスメントの防止措置については、平成11年に事業主に義務付けられていましたが、このたび育児・介護休業法が改正され、平成29年1月から、新たに育児休業等に関するハラスメントについても防止措置を取ることが事業主に義務付けられました。

 育児・介護休業法の改正のポイントは下表のとおりです。

 

 ◆これまで

 

 

 

 ◆平成29年1月1日からは上記に加えて

 

 

 

 

 

事業主(人事労務担当者)自らが行う不利益扱い(就業環境を害する行為を含む。)が禁止されるのはもちろんですが、改正法施行後は、上司・同僚が、育児休業・介護休業等に関する言動により、育児休業の申出・取得者等の就業環境を害することがないよう、事業主として防止措置を講じることが新たに義務付けられます。

 

資料:「職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント対策やセクシュアルハラスメント対策は事業主の義務です!!」厚生労働省都道府県労働局雇用環境・均等部(室)

 

⒉ 改正育児・介護休業法によって事業主に義務付けられた、育児休業等に関するハラスメント防止措置の主な内容として次のものが挙げられます。

 ・事業主の方針等の明確化及びその周知、啓発

 ・苦情を含む相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

 ・職場における育児休業等に関するハラスメントに係る迅速かつ適切な対応

 ・職場における育児休業等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置

 

⒊ ハラスメント防止措置の具体的内容は、厚生労働大臣の「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」(平成21年厚生労働省告示第509号)に定められています。企業においては、従来セクシュアルハラスメント防止措置を講じる中で培った経験を活かしつつ対応していくことが求められます。

 なお、育児・介護休業法の改正と同じように男女雇用機会均等法も改正されており、平成29年1月から妊娠・出産に関するハラスメント対策を講じることも事業主の義務となりますので、あわせて注意が必要です。

事業主の義務

根拠

育児休業・介護休業等を理由とする不利益扱いの禁止

育児・介護休業法第10条等

事業主の義務

根拠

上司・同僚からの育児・介護休業等に関する言動により育児・介護休業者等の就業環境を害することがないよう防止措置を講じること(ハラスメント防止措置を講じること)

育児・介護休業法第25条

そう言われると気分がいいですね。