吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、鳥飼総合法律事務所の代表弁護士である鳥飼重和先生の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第69回 「自炊」データの共有にはご用心!

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 浜地 保晴

小野社長 吉永先生! 弁護士さんって、本をたくさんお持ち

ですよね?

吉永弁護士 小野社長、こんにちは。どうしたのですか突

然。そうですね、弁護士にとって法律書は飯のタネですから

ね。

小野社長 僕も弁護士さんほどではないですが、ビジネス書

や小説をたくさん持っていて保管場所に困っていたんです。

そこで、最近「自炊」を始めましてね。

吉永弁護士 本の「自炊」って、スキャナーで本を電子デー

タ化するアレですか?

小野社長 そうです。電子データ化した本はタブレットに入

れて持ち歩いているんです。紙の本を処分してだいぶスペー

スが空きましたよ。

吉永弁護士 へえ、いいですね! 私もやってみようかな。

小野社長 いいところはそれだけではないですよ。電子デー

タ化した本にはOCR処理というものを施して、文字を検索で

きるようにしているんです。OCR処理によって、必要な情報

を一発で調べることができるようになっています。今までは

必死でページをめくって情報を探していましたから、時間の

節約にもなりました。

吉永弁護士 さすが小野社長、最先端ですね!

小野社長 うちの従業員にも自炊を勧めています。あと、ビ

ジネス書を自炊して従業員間で共有して、生産性を上げよう

と考えているんです。

吉永弁護士 え! それはまずいかもしれませんよ!

小野社長 自炊はみんなやっていますよ。違法ではないです

よね?

吉永弁護士 個人利用を目的とする自炊は違法ではありませ

んが、複数人で電子データを共有することを目的とする自炊

は、著作権法上の複製権の侵害になる場合がありますよ!

小野社長 複製権?

吉永弁護士 本の著作権者はコピーなどによって本を複製す

る権利を独占的に有しています。これを「複製権」といいま

す。

小野社長 それじゃあ、自炊はみんな複製権の侵害になるん

じゃないですか。電子データというコピーを作るんですから。

吉永弁護士 いえ、複製が「私的複製」に当たる場合には、

複製権の侵害となりません。自炊でいうと、小野社長が今な

さっているように本を個人的に楽しむためであったり、家族

内やこれに準じる少人数の仲間グループで共有するためであ

ったりするなどの場合、私的複製に当たります。

小野社長 なるほど。じゃあ、逆に会社の従業員間で共有し

たりするのは……。

吉永弁護士 おそらく違法でしょうね。コンピュータプログ

ラムを会社内で無断複製して損害賠償請求された、というケ

ースは多いようです。本の無断複製はあまり聞いたことはあ

りませんね。

小野社長 バレなきゃいいという考えは……。

吉永弁護士 通用しません!

小野社長 は、はい! 分かりました……。

【解説】

1 「自炊」について

 数年前に「自炊代行業者」による自炊代行サービスは適法か否かが裁判で争われたこともあって、「自炊」をしたことがなくても、その言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。

 「自炊」とは、裁断した書籍をスキャナーで読み込み電子データ化することをいいます。電子データ化した書籍は、タブレットなどの電子書籍リーダーで読むことができます。電子データ化にOCR処理をかけることでさらに便利になります。OCR処理によって、電子データ上の文字列を検索できるようになります。例えば、太宰治の『走れメロス』を自炊してOCR処理をかけ、電子書籍リーダーで「メロスは激怒した。」と検索すると、そのページがヒットするのです(1ページ目ですが)。

 省スペース、持ち運びやすい、文字検索ができるということで、近年人気となっています。

2 複製権

 ところで、著作権法第21条は、「著作者は、その著作物を複製する権利を占有する。」と規定しています。この権利を複製権といいます。「複製」とは、著作物を「複製、印刷、写真、録音、録画、その他の方法により有形的に再製すること」と定義されており(同法第2条15号)、例えば、コピー機を用いた複写やパソコン内ハードディスクへのダウンロードが「複製」に含まれます。

 先ほど述べたとおり、自炊とは、「裁断した書籍(著作物)をスキャナーで読み込み電子データ化すること」をいうのですから、まさに「複製」に当たります。自炊は著作者の複製権を侵害することになるのでしょうか。

3 私的利用

 ここで、著作権法第30条1項は、著作物について、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(中略)を目的とするときは、(中略)複製することができる。」とし、「私的複製」については複製権の侵害にはならないと規定しています。

 この規定によって、電子データ化した書籍を個人的に使用することを目的として自炊をする場合には複製権の侵害になりません。個人的使用以外にも、家庭内や少人数の仲間グループ内での使用を目的とする自炊も「私的複製」に含まれると解されています。

 一方で、企業の従業員間での共有を目的とした自炊は、「私的複製」の範囲を超え、著作者の複製権の侵害となると解されています。自炊の事例ではありませんが、企業内でコンピュータプログラムを許諾なしに複製したとして損害賠償を命じられた裁判例があります。小野社長がやろうとしている従業員間で共有するための自炊もどうやら複製権の侵害になりそうです。

 なお、冒頭で挙げた「自炊代行業者」による自炊代行サービスは、結論として、「私的複製」ということができず、複製権を侵害すると判断されています。