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士業グループ化で成長の新たなフェーズに入ったベンチャーサポートグループ

ベンチャーサポートグループ 総代表 税理士 中村 真一郎

ベンチャーサポートグループは、800名規模、全国17拠点体制、顧問先数は日本トップクラスの8000社超という総合士業グループである。

2003年8月の創業から、わずか17年で巨大士業集団を形成した同グループの取り組みは会計業界の注目の的である。その成長はとどまるところを知らず、2014年から社労士法人、行政書士法人、司法書士法人、弁護士法人を立て続けに設立し、顧問先の抱えるあらゆる問題をワンストップサービスで解決できる体制を構築。さらに、税理士法人を分離して設立した相続税理士法人は、わずか3年で相続申告件数1200件を超える急成長を遂げている。

今回の取材では、創業者でグループ総代表を務める中村真一郎氏(写真)に、総合士業グループ化や相続業務参入の経緯、ワンストップサービス体制によるさらなる成長戦略などについて伺った。

(編集部注・本稿は、2019年9月27日に開催された「ベンチャーサポート相続税理士法人徹底見学会」で放映されたビデオ映像をもとに制作しました。取材日2019年7月8日)

「月刊実務経営ニュース」2020年1月号より

顧問先数8000社の巨大士業グループ

―― 本日は、ベンチャーサポートグループ総代表の中村真一郎先生にお話を伺います。

グループの中核であるベンチャーサポート税理士法人は、起業家の支援に特化して急成長を遂げた会計事務所です。ここ数年は、社労士法人、行政書士法人、司法書士法人、弁護士法人を次々に設立し、顧問先のあらゆる悩みをワンストップで解決できる総合士業グループを構成しています。

弊誌では、これまでにたびたび同社とそのグループ法人を取材し、その成長の軌跡や取り組みを紹介してきました。

2019年8月号では、平成28年に税理士法人から分離し、相続部門として設立されたベンチャーサポート相続税理士法人を取材しました。

同社は、グループ内のさまざまな士業法人と連携し、相続に関するあらゆるサービスをワンストップで提供することで、設立からわずか3年で年間相続申告件数が1200件を超えるという急成長を見せています。

今回の取材では、創業から17年目を迎えたベンチャーサポートグループの、さらなる成長に向けた取り組みや展望について伺いたいと思います。

まずは、現在のグループ構成や規模についてお聞かせください。

中村 グループ内の士業法人としては、ベンチャーサポート税理士法人とベンチャーサポート相続税理士法人のほかに、社労士法人、行政書士法人、司法書士法人、弁護士法人があります。不動産会社も含めると、9社になります。

職員数は、グループ全体で810人ほどです。拠点は、全国で大きく7オフィス(東京、横浜、大阪、福岡、名古屋、仙台、埼玉)に分かれ、東京のように複数の事務所を構えるエリアもありますから、合計で17になります。

顧問報酬を頂いているお客様は、現時点で8000社を超えています。売上は、ざっくりいうと前期が70億円で、今期は85億円を超えるかもしれません。

―― 弊誌2014年3月号の取材時と比較して、職員数は約5倍、拠点数と顧問先数は3倍以上、売上は5~6倍の規模になっています。その数字もさることながら、成長スピードが加速していることに驚かされます。その要因はどこにあると分析されていますか。

中村 要因のひとつに、当グループの特徴でもあるインターネットを活用した集客があることは間違いないでしょう。

それに加えて、集客だけに力を入れるのではなく、並行してお客様の増加にしっかり対応できる組織づくりを進めてきたことも大きいと思います。

もうひとつ、士業グループとしての規模が大きくなったことも、成長を加速させる要因になっていると思います。例えば、新たなビジネスを展開するとき、規模の大きいほうが最初から有利です。

伸び率でいうと税理士法人だけの頃のほうが高いのですが、周辺業務にも事業を拡大することで、グループ全体が成長し続ける形になっています。

―― 顧問先数8000社は、間違いなく業界トップクラスといえます。この数が貴社のビジネスを支えているわけですね。

中村 はい。お客様が全ての基盤であり、そこから業務を広げていく形で、税理士を中心とした士業グループが出来上がっています。

相続業務をワンストップサービスとして提供

―― 2014年3月号では、顧問料を軸にした事務所経営を心がけ、訴訟リスクの高い資産税や相続税の業務は行っていないと仰っていました。

中村 ええ。リスクをどれだけ減らせるかは経営課題のひとつであり、そこは現在も全くぶれていません。

―― 4年前にベンチャーサポート相続税理士法人を設立し、相続税業務に参入したのは、基礎控除の低減により相続税の課税対象者が増え、マーケットが拡大したことがきっかけでしょうか。

中村 市場があるからというよりは、お客様がベンチャーサポートに期待していることは何かを考え、そのニーズに応えようというところからスタートしています。

当社のお客様である起業家の方々は30~40代の方が多く、親御さんが亡くなったときのご相談も数多く寄せられます。そうした場合、これまでは他社のサービスを紹介せざるを得ず、心苦しく思っていました。

もともと、お客様とのコミュニケーションを重視し、何でも相談していただける関係づくりを目指していますから、ベンチャーサポートだけで全てのニーズに応えたいという思いはありました。

そこで、相続業務のリスクについて、あらためて検討しました。もちろん、金額の大きい相続案件には相応のリスクがあるものの、基礎控除の課税最低限が下がったりしたことで、法人税務よりもリスクも競争も少ないと判断しました。

―― ワンストップサービスとして提供しているのも、顧客のあらゆるニーズに応えたいという思いからでしょうか。

中村 はい。それが、お客様にとって一番のメリットだと思います。ワンストップであれば、他の士業や不動産会社と提携する場合と違い、それぞれがお客様から利益を得ようという発想は出てきませんから。

―― 顧客側は、遺言や登記などもろもろの手続きをひとつの窓口で行えるし、余計な費用を払う必要もなくなるわけですね。

中村 ええ。利便性が高く、お客様に損もさせませんから、私たちの大きな強みになっていると思います。現在の規模だからこそビジネスになるという一例です。

図版
リスクをいかに軽減させるかが経営者の役割

―― 急成長に伴い巨大化した組織で、どのようにガバナンスを維持されているのでしょうか。

中村 その点については、グループ法人を設立し始めた数年前から取り組みを続けています。まず税理士法人の内部統制から始まって、どのような体制を築くかについて、顧問弁護士としっかり話し合いました。

当グループには弁護士法人もありますが、その分野に詳しい別の弁護士に依頼して体制の構築を進めています。

社労士法人や司法書士法人も同様のやり方で構築して、グループ内の複数の弁護士がチェックしていく形を採っています。

―― グループ内の弁護士ではなく、外部の弁護士に依頼したのはなぜでしょうか。

中村 先ほど申し上げたように、リスクをいかに減らすかが私の重要な仕事です。事務所にとって最大のリスクは損害賠償や資格停止ですから、そのリスクを排除するために費用を惜しまないのは当然だと思っています。

ですから相続業務も、資産規模の大きい案件や、損害賠償リスクのある生前対策には、あまり手を出さないようにしています。

とはいえ、これらの業務についても、必要なスタッフがそろい、リスクの見極めができたらスタートする可能性はあります。

―― 経営者としての中村先生は、グループの存続を第一に考え、リスクをいかに低減・回避するかを常に考えていらっしゃるのですね。

中村 そのとおりです。皆さんからは、成長を第一に考えていると思われているようですが、成長はいつでもできます。経営とは、リスクをいかに軽減させるかです。

―― 「成長はいつでもできる」という言葉に、経営者としての自信がうかがえます。

中村 私自身も10年前は成長を追求していたので、今の立場だから言っているところもあります。そのあたりはバランスとタイミングだと思いますが、いつまでも成長だけを追い続けるのは危険です。

―― フェーズに合わせて戦略を考えていくべきだということでしょうか。

中村 そうですね。別の言葉でいうと、バランスを取るのが経営者の役割だと思います。会社が成長のほうにグッと向いているときは、別の方向に寄せて、そちらに寄り過ぎたら再度成長に向かわせるという感覚でしょうか。

―― 中村先生が、自らを経営者と意識するようになったのはいつ頃でしょうか。

中村 東京に進出した頃なので、10年ほど前でしょうか。拠点が大阪と東京の2つになり、物理的に自分では見られない部分が出てきたときから、経営するという感覚になった気がします。

―― 現在も新設法人の支援という基本スタンスに変化はありませんか。

中村 はい。全く変わりません。ですから、拠点を置いているのも法人の新設が多い大都市圏が中心です。

―― 2014年3月号では年間増客数が1000件でしたが、現在はいかがですか。

中村 法人の新設だけだと年間2500件を超えています。

―― こちらも驚異的な数字です。

中村 とはいえ、日本の年間の新設法人数は13万数千社だそうですから、2%弱にすぎません。

―― そうすると、成長の余地はまだ十分にあるといえますね。

中村 ただ、お客様やスタッフの質を見極めていく段階に入っていると思うので、単純に数を追うことはしないでしょう。

ベンチャーサポートグループ
ベンチャーサポートグループ

中村先生が代表を務めるベンチャーサポートグループは、税理士、弁護士、社会保険労務士、行政書士、司法書士、不動産会社などを擁する総合士業グループ。グループ全体で「士業はサービス業」という共通理念を掲げ、経営者が抱える多様な課題をワンストップで解決するサービスを提供している。

外部リンク:ベンチャーサポートグループ

会計事務所にとってAIは便利な道具にすぎない

―― ここ数年のAIやクラウド、RPAといった世の中の動きをどのようにお考えですか。

中村 私は一貫して、自分たちが提供しているサービスとは特に関係がないと言っています。今開発されているものは、私たちの業界にとって単なる道具であり、便利な道具として使えばよいだけです。

お客様と私たちの信頼関係という点では、大きな変化はないと思っています。ですから、あまり脅威も感じていません。納税の仕組み自体が変わるようなことが起こらない限り、人と人のコミュニケーションは残るというのが私の意見です。

むしろ、税理士は士業のなかで最も有利な立場にいるという私の持論が証明されるのではないでしょうか。

ただし、単純な計算処理や月次試算表の作成といった作業については、人に取って代わるかもしれません。

顧問先との信頼関係構築が大きな強みになる

―― 今のお話は、これからの会計事務所のひとつの在り方を示していると思います。作業レベルの仕事はAIに任せ、経営者とのコミュニケーションを深めて固い信頼関係を築ければ、会計事務所にとって何よりの強みになるということですね。

中村 仰るとおりです。税理士はよろず相談所として、社長のあらゆる相談の窓口になれますし、そこから他の士業に紹介できるという極めて有利なポジションにいると思います。

お客様との距離の近さや、社長との人間同士の結び付きなどは、どれだけインターネット広告にコストをかけても壊せません。それが、地元に密着した税理士の強みです。

―― 経営者との信頼関係をしっかり築き、窓口になることは何物にも代えがたいということですね。

中村 ええ。ですからスタッフには日頃から、お客様が「ベンチャーサポート」という名前にどのようなイメージを持つかが大事だと言っています。

この名前を聞いて、相続でも「ベンチャーサポートの担当者が勧めるなら間違いない」思ってもらえるくらいサービスレベルを向上できれば、理想的といえます。当グループに限らず、全ての会計事務所と税理士さんがやるべきだと思っています。

顧客のニーズに応え続けることが成長につながる

―― 最後に、ベンチャーサポートグループの3年後、5年後の成長戦略について、差し支えない範囲でお話しいただけますか。

中村 実は、10年後にこうなろうといった、明確なビジョンがあるわけではありません。

ただ、最初に申し上げたように、今お客様が何を求めているのかを考えると、現在は東京にのみ事務所がある弁護士法人や不動産会社を、大阪や名古屋に展開していくことは間違いないと思います。

また、先ほど申し上げた相続での生前対策など、「今はやらない」と言っているビジネスをスタートする可能性もあります。

ただし、私は士業周りのことしかしませんので、お客様のニーズが出てきて、そこにうまくあてはまる人材と知り合えればと思っています。

―― 現在のビジネスの延長線上に、あらゆる可能性があるわけですね。

中村 そうですね。経営というものは、人の問題、強力なライバルとの競い合いなど、日々何らかの問題が起こりますが、相続税理士法人の代表である古尾谷などの幹部と相談しながら、それらにどのような手を打ち、どう解決していくか、そして自分がどこまでやれるのか、楽しみでもあります。

―― 本日は貴重なお話をありがとうございました。ベンチャーサポートグループのさらなるご躍進に期待しています。

中村先生
■中村真一郎(なかむら・しんいちろう)

ベンチャーサポートグループ総代表。税理士。昭和50年生まれ。平成15年、新設企業の支援に注力するベンチャーサポート総合会計事務所(現・ベンチャーサポート税理士法人)を設立。その後わずか17年で、同事務所を顧問先8000社超の巨大士業グループに育て上げた。