吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

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中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、鳥飼総合法律事務所の代表弁護士である鳥飼重和先生の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第25回 従業員の「おつぶやき」にご用心!

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 永吉啓一郎

鈴木社長 吉永先生、明けましておめでとうございます。今

年もよろしくお願いしますね。

吉永弁護士 明けましておめでとうございます。こちらこ

そ、よろしくお願いします。今年はより一層、クライアント

の力になれるように頑張っていく所存です!

鈴木社長 新年から気合十分ですね。ありがとうございま

す。私も今年は、よりお客様の信頼を得ることを目標にして

います。それで、吉永先生に少しお聞きしたいことがありま

して。

吉永弁護士 どうされたのですか? どんなことでも仰って

ください。

鈴木社長 ありがとうございます。おかげさまで、弊社の顧

客もずいぶん増えて、昨年には1万人の大台を超えました。そ

れに伴い従業員も増えたのですが、その分、顧客情報の管理

等をもっとしっかりしないといけないと思っています。最近

は、従業員個人がインターネットを通じて情報を発信するこ

ともできますから。

吉永弁護士 確かに、最近は従業員が自身のブログやSNSな

どを利用するなかで、顧客情報が漏れてしまったというケー

スも多いようですね。情報漏洩は法律的にも責任が生じます

し、何より顧客の信頼を失ってしまいます。

鈴木社長 そうなのですよね。仲間の社長さんにも苦労して

いる方がいますし……。法律的な責任も含めて、そのあたり

を教えていただけませんか?

吉永弁護士 お任せください。まず、顧客情報を漏洩してし

まった従業員個人については、法律的には不法行為をしたと

して、その顧客から、損害賠償請求を受ける可能性がありま

す。

 また、使用者責任(連載第10回を参照)という制度があ

り、この従業員を雇っている会社自体も損害賠償請求を受け

ることになるでしょう。

鈴木社長 やはり従業員個人の問題にはとどまらず、会社も

責任を負ってしまうのですね。

吉永弁護士 はい。そうなる可能性が高いでしょう。

 付け加えますと、鈴木社長の会社のように5000人以上の顧

客情報を抱える会社では、顧客からの損害賠償だけでなく、

きちんと個人情報保護の対策を講じるようにと行政庁から措

置命令を受けることもあります。これに従わないと、罰則を

受けることになります。

鈴木社長 罰則ですか……。なんだか本当に怖いですね。

吉永弁護士 ええ……。ただ一番怖いのは、情報の漏洩によ

り顧客の信用を失ってしまうことだと思います。

 今は、情報漏洩をした会社のことがインターネットなどを

通じてすぐに広まってしまいますから。

鈴木社長 インターネットはとても便利ですが、やはり怖い

部分も多いですよね。あらためて認識しました。

吉永弁護士 トラブルが起こる前からしっかり問題意識を持

っておられる鈴木社長なら、過剰に怖がる必要はないと思い

ます。事前に対策を講じておけば、かなりの確率でトラブル

を防ぐことができます。

鈴木社長 事前に対策をとることが重要なのですね。具体的

には、どのような方法があるのですか。

吉永弁護士 まず、従業員に顧客情報を外部に漏らさない旨

の誓約書を作成させることや、就業規則上、情報漏洩を懲戒

処分の対象とすることが考えられます。

 従業員の自由を制限するようですが、さっきお話ししたと

おり、情報を漏洩すると従業員自体も責任を負いますので、

このような対策をとることで、むしろ従業員を守ることにな

ります。

鈴木社長 確かに従業員としても、重い責任を負うとは思わ

ずに情報を漏洩してしまうことがあるかもしれませんね。顧

客情報の扱いについて、従業員に高い意識を持たせるように

するということでしょうか。

吉永弁護士 まさにそのとおりです!

 従業員に対する教育・研修を実施し、情報漏洩をしたとき

に従業員が負う責任、会社が負う責任の大きさを理解しても

らう必要があります。そして、情報に対する認識を深めても

らうことがとても大切です。

鈴木社長 ありがとうございます。

 年初めということもありますし、これを機に、顧客情報に

ついて理解を深める研修を実施しようと思います。

 もしかしたら、吉永先生に講師をお願いすることになるか

もしれませんが……。

吉永弁護士 本当ですか! そのような機会を頂けるのであ

れば、ぜひお願いします。

鈴木社長 それではまた、日程など詰めていきましょう。

*解説*

 近年、インターネットの普及により、ブログやSNSサービスを通じて個人が情報を発信することが著しく容易になってきています。しかし、それを通じて、企業の顧客情報等を従業員が漏洩してしまうケースが増加しています。

 法律的には、情報漏洩をした従業員のみでなく、その従業員を雇っている会社も責任を負う可能性があると考えられます。また何よりも、顧客情報の漏洩は、会社に対する信頼を大きく揺るがすことになりますので、事前対策を講じることが特に重要となります。

 具体的には、

①従業員に機密保持に関する誓約書を作成させる

②就業規則に情報漏洩等を懲戒処分の対象とする規定を設ける

③従業員の教育の一環として、研修等を実施し、情報漏洩に対する理解を促し、情報漏洩を防ぐという意識を徹底させる

などの対策が有効です。