2030年で引退する

本日は、御堂筋税理士法人の才木先生と隣先生にお話を伺います。貴事務所は高生産性・高付加価値型事務所のフロントランナーであり、これまでに何度も取材をさせていただきました。

2025年3月号では、創業者の小笠原士郎先生にも、経営を数字で見える化し、全員参加の会議で経営計画の実行を管理する「コックピット経営」について取材しています。

才木先生はその小笠原先生から事務所代表の座を受け継がれ、御堂筋税理士法人の名を業界で不動のものとしました。ところが、今年に入ってから、「2030年に代表を降りる」と宣言されたそうですね。引退は早すぎるのではないでしょうか。

いきなり大きな質問になりますが、真意をお聞かせいただけませんか。

才木

私が代表になったのが2017年で、その前の4年間はCOOを務めていました。

2013年、当社の創業者である小笠原士郎が60歳のときのことですが、「5年かけて事業承継する」と宣言したのです。後継者候補は才木と松本(現代表社員の松本 綾先生)だと言われ、実際には4年で承継しました。ボス(小笠原先生)は60歳で宣言しました。私は今55歳です。

実は5年ほど前から、私と松本は「俺ら早く引退しような」と話していました。理由は、時代の変化が激しく、私たちも最新のAIの情報を自分で取り切れていないからです。事務所が時代の変化に対応しきれなくなるくらいなら、若い世代に早くトップに立ってもらうほうがいいのです。

周りは、「口で言っているだけで、そう早くは辞めないだろう」と思っていたかもしれません。そんななか、隣は真剣にこの話を受け止めてくれたひとりだと思います。それで、今年の社内の発表会で、「2030年には松本と一緒に代表を降りる」と宣言しました。

これは友人にも話していますので、「その後何するの」「御堂筋は大丈夫なの」と心配をしてくれます。でも大丈夫です。本当に責任を持って仕事をしてくれるメンバーがいますので、私たちがいなくても、御堂筋は何の問題もないと思っています。

2030年より先、ご自身は業界に向けて何かをされるお考えですか。

才木

引退してからも、会計業界に対しては何かできればと思っています。御堂筋はもうひとり立ちしているので、私が役に立てるところはあまりないと思っているのですが、別のところで私の知見が役立てばいいですね。

隣友也氏(左)と才木正之氏(右)
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成長市場での差別化

続いて、事務所の業績についても伺います。ここ数年、売上はどのように推移したのでしょうか。

才木

事務所の業績は、2023年度の売上実績が8億5900万円です。2024年度に初めて10億円を達成し、昨年2025年度は急に15億円になりました。1年で5億円を積み上げるという異常事態で、私たちはこれを「ハレー彗星」と呼んでいます(笑)。

M&Aの事業部門が超大型の仕事をしてくれて、予算比232%の超過達成を実現しました。このまま上昇カーブを描くことはできませんので、今期2026年度は12億6000万円という目標を掲げています。

大変な成果ですが、M&A業務はかなり浸透しているのですか。

隣

3年前と比べて、圧倒的に会話の量が増えた気がします。私を含めて全員のメンバーが、日常的にM&Aの話をします。

多くの会計事務所は、M&A仲介会社と連携して対応していますが、貴事務所の場合は事業承継支援・M&Aの専門会社である株式会社リガーレを設立されました。狙いを教えてください。

才木

リガーレは5期目です。着手はその前で、たぶん7年ほど前でした。

市場として成長していく領域が、ビジネスとしては一番やりやすいといえます。ただし、競争は激しくなります。M&Aはまさにそのような市場ですね。

でも、自分がプレーするドメインによっては、競争市場でも優位性を発揮できます。大きくなっていく市場で差別化できる要因があると、かなり強いのではないかと考えています。

クレドにあるように、私たちは「わが社は実験台」ということでチャレンジしていこうと考えています。ただ、一番生産性の高いエクスキューション、つまりディールのところは金融機関やブティックがやっていて、私たちがやろうとしても無理だと思っていました。

会計事務所ならPMIをやることも考えられますが、お客様はディールにお金を使っていますから、PMIに1000万円もかけられません。

そのようななか、「M&Aは伸びていく市場だから、ディールも含めて挑戦してみよう」という発想が出てきたのが、たぶん7年ほど前です。

私たちの差別化要因は、会計事務所であることです。M&Aでは譲渡側にも買う側にも税の問題が必ず出てきます。加えて私たちは経営コンサルティングに強いのでPMIができます。「前後のことを考えれば、ブティックに頼むより御堂筋に頼んだほうがいい」と思ってもらえるのではないかと考えました。

市場が広がって競争は増えるけれど、「御堂筋(リガーレ)のM&Aサービスは安心できるよね」と思ってもらえるところに、私は勝算があると思ったのです。

属人性排除の時代は終わった

貴事務所はビジョンに「色えんぴつ経営」を掲げています。「色えんぴつ経営」とは何でしょうか。

才木

会計事務所の商売は、人が人からお金をもらうビジネスです。Netflixのようにアプリがお金を稼いでくれるわけではありません。

ですから、この事務所で働く人たちが、自分のやりたい仕事をやってお客様からお金をもらう、というのが一番いいのです。

そのためには、一人ひとりの個性を受け止め、強みを生かすべきだ。そんな思いを「色えんぴつ経営」という言葉に込めています。

たとえば隣に「あなたの色は何色ですか」と聞いても、隣が自分の色を決めているわけではありません。ただ、隣が自分の強みを生かした仕事をしてくれれば、それがお客様に届いて、お客様は隣に来てほしい、隣の講演を聞きたい、隣の研修を受けたいとなります。

仕事は人に帰属するものだと思っています。属人性という言葉がありますが、御堂筋は属人性に振り切っている組織です。属人化はだめだ、標準化だという時代は、逆にもう終わったと思っています。

「属人性」という言葉は、会計事務所経営の話ではよく出てきますが、たいていはネガティブな文脈です。

才木

私はポジティブですよ。今は標準化できるような仕事は、AIがやっていく時代だからです。人がAIに勝てる領域はあると私は思っていて、それこそが汎用性が利かない、属人的な仕事だと思います。

才木先生から、隣先生の例えが出ましたが、「色えんぴつ経営」についてどのように感じていますか。

隣

私にとって違和感のない考え方ですが、立場が変わって新しいメンバーを迎えるようになると、「『個性が強くないといけない』というプレッシャーを感じる人もいるのだな」と思うようになりました。「御堂筋でやっていくには個性や強みがないとだめだ」と思ってしまうようですね。

ただ、私たちの仕事には定量的な部分と定性的な部分があります。私たちには生産性が高いという定量的な強みがあるので、まずは自分がちゃんと成果を出すことにフォーカスすれば、個性はおのずと見えてくると思っています。

私はコンサルティングの責任者をしていますが、3年前に入ってきた中途メンバーは、今では1人で3000万円の売上をあげるまでに成長しています。そうなると彼らにも自信がわいてきますし、「こうやってみたい」という挑戦心も出てきます。