会計事務所のための運送業特化研究部会

実務経営研究会はこの秋、会計事務所が運送業支援のノウハウを学ぶための研究部会「TASK(Transport Advisory & Support Knowledge)」を立ち上げます。「TASK」の顧問には、運送業支援に関する豊富な知見を持つお二人、行政書士法人フロンティアの杉本祐一副代表と、株式会社ひばりコンサルティングの笠原慎也代表に就いていただく予定です。

杉本副代表は、運送業完全特化の行政書士事務所で活動しているほか、実際に運送会社の経営にも関与しています。まずは、杉本副代表に運送業特化の経緯を伺います。

杉本

私が大学の法学部に在学していたときに、ゼミの先生がつないでくれた先輩が、今のフロンティアの代表です。19歳のときに初めて話を聞き、事務所に誘っていただきましたが、そのときは起業したいと考えていたので入所しませんでした。

4年生になって、知識も経験もなく起業をしてもうまくいかないだろうと考え、まず社会経験を積むことにしました。最も苦手な分野に行くのが私の信念だったので、苦手だったIT分野を選び、ソフトバンクグループのSB C&S株式会社で法人営業に取り組みました。

その後、現在代表を務めている株式会社スリーディールを起こそうと考えたとき、ITのほかに、もうひとつ基盤となる事業がほしいと思い、フロンティアの代表に相談しました。このときの話の流れで、私は事務所の経営に参画することになりました。

そして、フロンティアのブルーオーシャンはどこかと二人で話したのですが、運送業だという点で考えが一致したのです。

フロンティアはすでに運送業に強いと謳ってはいたのですが、さまざまな業種のお客様に対応している状況でした。そこを見直して、運送業以外のお客様はお断りし、まずは大阪で、運送業に完全に特化しました。

特化するには、運送業を知らなければなりません。そこで、グループにフロンティアライン株式会社という運送会社も立ち上げました。

どのような運送会社なのですか。

杉本

一般貨物自動車運送事業、いわゆる緑ナンバーのトラックの会社です。

設立当初はトラック5台、ドライバー5人で、許可要件どおりにスタートさせました。当時、事務所のお客様は20社程度で、そのつながりで運送の仕事をいただいていました。運送会社としては、損をしない程度で十分だと考えていました。

運送業の共通言語を持てたことで、お客様との親和性はかなり高まりました。行政書士をやりながら運送業まで手がけているところは全国的にも少なく、それが特異性になったと思います。そこからは、紹介が紹介を呼びました。

爆発的に広がったきっかけは、地場の核となる、キングのようなお客様の存在です。そのお客様が手をつけていなかった運賃の計算や1台あたりの利益を、一つひとつ見直して整理しました。すると本当に喜ばれ、そのお客様から「下請けや協力会社も見てあげてほしい」と頼まれるようになりました。

そこからはトントン拍子に紹介をいただき、今年もまた増えていますので、関与先はおそらく500社程度に届く規模になってきています。

MG研修でマネジメント層を育成

続いて、笠原代表にもお話を伺います。運送業に関わった経緯をお聞かせください。

笠原

私が社外取締役をしている損保代理店や社会保険労務士法人には、なぜか運送業に特化しているところが多かったのです。

その社会保険労務士法人のお客様に、ドライバーが約2000名いる会社がありました。2024年問題を前に、40ほどある営業所の所長たちのマネジメント力を1年半かけて強化するプロジェクトを始めることになり、そこに関わりました。

いま主力にしているのは、マネジメントゲーム(MG)研修の運送業版と入門編です。発端は、その会社で通常のMG研修を実施したことでした。すると、「運送業版のMG研修ができないか」という話になり、権利元と交渉して正規のライセンスを得たうえで、2年ほどかけて運送業版のMG研修を開発しました。

ご存じのとおり、研修はやっただけでは効果が出ません。研修の後に何をするかということで、90日間の伴走プログラムを開発しました。

最初に、会社のビジョンと強み、課題をAIに入れておきます。まずその会社だけでMG研修を実施して記録を取り、そこから90日間、AIが伴走します。半分の45日が経つと、やる人と止まっている人が出てくるでしょうから、そこでリカバリーのレビューをして、また45日間続けます。最後にもう1回MG研修を実施して、どれだけ変わったかを見て、次の戦略に活かしてもらうのです。

研修の後も90日間、伴走してもらえるのはいいですね。ちなみに、運送業界そのものを笠原代表はどう見ていますか。

笠原

運送業界は、新しいビジネスが参入するうえでの3要件をすべて揃えています。マーケットサイズがあること、そこに非効率性が存在していること、そして変化の渦中にあることです。

社長は数字が読めず、運賃交渉は「陳情」に

杉本副代表から見て、中小の運送会社の経営課題はどこにありますか。

杉本

私が見ている限りの実感ですが、運送業界は、90%以上が従業員30名以下、車両30台以下の事業者です。

そのような会社の社長の多くは、大学で経営学を学んで運送会社を起業したわけではありません。

いわゆる腕利きのトラックドライバーだった方が、「運賃がいくらで、ガソリン代がこれぐらいで、車両代がこれぐらいなら、自分にもできるのではないか」と思って会社を立ち上げ、今に至っている場合が大半です。

そのような社長の大きな課題のひとつが、数字が読めない、決算書の読み方が分からないことです。「P/L」と言うと、「PL学園がどうしたの?」という答えが、冗談ではなく返ってきます。

そのような社長の会社がなぜ5年、10年と続いているのかというと、それは、経験によるどんぶり勘定でなんとか回してきたからです。

「このルート、運賃5万円でお願いします」「5万円ならいけるか」というやり取りで決め、月末に前月と今月の残高を見比べて「増えている、利益が出ている」と判断するような状況です。ただ、今は最低賃金も燃料も車両代もどんどん上がっていて、経験則が追いつかず、倒産する会社もかなり多いのです。

そのような状況ですから、「1台あたりで見ると儲かっているのですか?」「1人あたりの人件費は適切ですか?」と切り分けていくだけで、会社はかなり変わってきます。

ちなみに運送業界では、運賃交渉がいま、かなりホットな話題になっています。ただ実情は、「うちはもう儲かっていません。人件費が上がって苦しいです。上げてください。これぐらいもらえたら嬉しいです」と言っているような状況です。これでは交渉ではなく、「陳情」ではないでしょうか。

運賃交渉をするためには、今はいくらで受けていて、利益がいくら出ていて、人件費をいくら払っているのか、その根拠を示す必要があります。そのうえで、なぜ運賃の値上げが必要なのかを理詰めで説明します。ただで上げてくれとは言わず、その代わりに、ドライバーにこういう教育を実施します、こういう品質のサービスを保証します、と示すのです。

そのような論理的な交渉ができている事業者は多くありません。運賃値上げの交渉は、運送業界にとって本当に重要な課題となっていると思います。

笠原

運送会社の社長には人間力、統率力、忍耐力があります。親分肌で下を引っ張っていく力はありますが、たとえ自分は数字を読めたとしても、それを幹部社員にどう伝え、動かすかで苦労する方が多いです。

そんなときは、たとえば簡易的にP/L・B/Sを表現したSTRAC図を活用されると理解が進みます。MG研修で使うSTRAC図は、変動費と固定費を分けて、限界利益を図で見せるものです。図で見せれば説明しやすいですし、幹部も「ああ、そういうことか」と理解してくれます。

数字が見えないと、目の前の案件を請けていいのかどうか、まさに勘頼みになります。しかし、「この単価では限界利益が採算ラインを下回るから、そのぶん本数が必要だ」と考えられれば、ただ請けるだけでなく、交渉が必要であることが分かるわけです。