3月13日に大手町フィナンシャルシティサウスタワー東京金融ビレッジ(東京都千代田区)で、ソリマチ株式会社(同)とソフトバンク株式会社(東京都港区)による記者発表会が開催された。
ソリマチからは、代表取締役社長の反町秀樹氏と、常務取締役の古宮衛士氏が登壇し、ソフトバンクからはIT統括AI戦略室AI&データ事業推進統括部統括部長の中川栄治氏が登壇した。
会見では、全国1643の商工会および
79万人の会員事業者に向けたDX支援に関する協業計画が発表され、生成AIを活用して中小企業や小規模事業者の業務効率化を図る具体策が示された。
商工会向けクラウド会計ソフトに生成AI
今回の協業により、ソリマチが全国の商工会向けに提供しているクラウド会計プラットフォーム「商工会クラウド」に、ソフトバンクが提供する「Azure OpenAI Service」などを組み込むことで、生成AI機能が搭載されることになった。
これにより、商工会が支援する事業者の会計データを分析し、業績のポイントや改善提案を自動でレポート化するなど、経営指導や日々の記帳作業の効率化が期待される。

AIの普及が遅れる中小零細企業
国内では、大企業と比べて中小企業や小規模事業者のAI活用が著しく遅れていると指摘されている。人手不足は深刻化しており、業務のデジタル化やAI導入が進まないまま経営課題に直面する例も少なくない。
そのような中小企業・小規模事業者を支援する商工会では、職員が限られた人員で多数の事業者を支援しているため、業務の効率化が大きな課題になっている。
ソリマチとソフトバンクが、協業を通じて商工会のAI活用を支援すれば、その恩恵は商工会が支援している中小企業・小規模事業者にも広まる。
ソリマチの反町社長は、「AI DXセミナーを77回開催し、5万4625名の小規模事業者に参加してもらった経験では、中小企業はデジタル化やAIに取り組む意欲はあるものの、やり方が分からない状況だ」と指摘し、ソフトバンクとの協業によってAIの活用法が分からないという中小零細企業を支援していきたいと語った。
また、ソフトバンクの中川統括部長は、「ソフトバンクは『AIインテグレーター』として、顧客が実現したい未来に向けてAIやテクノロジーを組み合わせて支援する取り組みを進めている。ソリマチの『AI活用で中小企業を幸せにしたい』という思いに共感しており、同社と協力して中小企業向けのAI基盤構築を進めていきたい」と語った。
経営支援レポートをAIで自動生成
今回の協業の柱のひとつが、ソリマチが提供する「商工会クラウド」に生成AIを搭載し、自動的に経営支援レポートを作成する機能だ。この機能は4月から提供が開始されている。
事業者の会計データや取引履歴をもとに、AIが自動で業績分析を行い、売上推移やコスト構造、収益性の変動要因などを可視化した「AI診断レポート」を作成する。
このレポートは、従来は商工会職員が手作業でまとめていた月次報告書の一部として統合される予定で、職員の業務負担を大幅に軽減するだけでなく、質の高い経営アドバイスの提供にも貢献する。
生成されたレポートは「たたき台」として提供され、最終的には経営指導員が内容を確認・補完して事業者にフィードバックを行う。
「商工会クラウド」の生成AIには、ソフトバンクが販売・構築支援をするマイクロソフトの「AzureOpenAI Service」に加え、独自のアノテーションツール「TASUKIAnnotation RAGデータ作成ツール」も活用される。これにより、個別事業者のデータ特性に合わせた柔軟なカスタマイズが可能になるという。
記帳業務のリマインド機能
9月からは、記帳業務の支援機能も提供される予定。
記帳業務において領収書や振込明細などの書類提出の期限が迫ってきた際に、商工会職員の代わりに生成AIが事業者へ自動でリマインドする機能を追加する。従来は職員が電話やメールで行っていた催促業務をAIが代行することで、業務の効率化が期待されている。
事業者にとって、記帳や書類提出といったバックオフィス業務は大きな負担であり、そこに「気づき」を与える機能は実務の質を底上げすると期待されている。
さらに、事業者からの問い合わせに対応するチャットボット機能も追加される予定だ。これにより、記帳や操作方法、提出書類に関する質問に対し、AIが24時間対応する仕組みが整備される。職員は複雑な相談や高度な助言業務に集中でき、事業者も即時対応が受けられる。
これらの機能は、単なる自動化にとどまらず、「人に寄り添うAI」としての役割を担うことを意図して設計される。
DX対応端末およびソリューションの提供
時期は検討中としながらも、ソリマチとソフトバンクは、インフラ面からの支援も表明している。
「商工会クラウド」がプリインストールされたスマートフォンやタブレット、SIM搭載パソコンなどの端末を、ソリマチ経由で商工会や事業者に向けて販売する構想が進められている。これにより、システム導入から利用開始までのハードルが下がるだけでなく、機器の初期設定やセキュリティ環境も一括して提供される。
加えて、ソフトバンクと連携しながらRPAやクラウド、ネットワーク、セキュリティなどのDX関連ソリューションをパッケージで提供する案も検討されており、商工会の業務基盤全体を支える「ワンストップDX基盤」としての役割が期待される。
コールセンターの業務効率化
また、昨年7月から実現している事例として、ソリマチテックグループのキャリアサクセス株式会社(新潟県長岡市)が運営するコールセンターの事例が紹介された。
このコールセンターでは、生成AIを活用した自動応答システム「アイちゃん」が稼働している。
この「アイちゃん」には、AzureOpenAI Serviceが導入されており、一部の問い合わせへの自動回答や、問い合わせ内容の要約などを行っている。
このコールセンターの事例は、将来的には他社への横展開も視野に入れている。
デジタル化の進まない農業分野にも可能性はある
記者発表会に参加した記者からは、デジタル化がなかなか進まない農業分野への支援の方向性について質問があった。
これに対し、ソリマチの反町社長は「農業王アグリエーション・アワード」の取り組みに言及し、世代交代を契機に大きく成長する例があ
ることを紹介した。そして、「最も利益を出している黒字経営の40代稲作農家の平均年収は決して低くなく、『農業は儲からない』という通念を覆す状況がある」と指摘した。
そして、こうした事例から再現性のあるモデルをつくれたら世の中の希望になるので、そのような取り組みも考えていきたいと語った。