会計事務所がなすべき付加価値サービスの提案

本日は、福岡県北九州市を拠点に事業拡大を志す楠本拓也税理士事務所の取り組みについて、楠本拓也先生にお話を伺います。また、同事務所に営業コンサルタントとして関わる株式会社CHANGE(東京都港区)の永井恭介代表取締役にも同席していただきましょう。

まず、楠本拓也税理士事務所の沿革や主要事業を教えてください。

楠本

私は地元の会計事務所で経験を積んだのち、2012年に北九州市の小倉北区で開業しましたが、当初は完全に顧客数ゼロでした。そこから少しずつ実績を積み、現在は私を含めて6名の事務所となりました。

事業の柱は4つあり、1つ目は事業再構築支援とものづくり支援を中心とする補助金申請・資金調達サポート、2つ目は生命保険提案、3つ目は税務調査対策、4つ目は相続問題関連です。とりわけ補助金申請の採択数は市内の会計事務所のなかで1位で、現在は地元の第一地銀や信用金庫と業務提携しています。

また、株式会社エフアンドエムの経営革新等支援機関推進協議会が付加価値サービスに優れた会計事務所を表彰する「TOP100事務所」に5年連続で選出され、殿堂入りを果たしました。

永井さんはすでに何度か本誌にご登場いただいていますが、あらためて自己紹介をお願いします。

永井

私は大学卒業後、理学療法士として約9年にわたって医療・福祉に携わりました。その仕事にもやりがいを感じていましたが、違う形で世の中に貢献したいという想いも抱いていて、2019年に起業しました。理学療法士という国家資格とは無関係の、まさにスマホひとつでのスタートでしたね。

それから紆余曲折を経て営業コンサルティングを専門とする株式会社CHANGEを設立し、ここ数年は会計業界のお手伝いをする機会も増えました。今では北海道から沖縄まで、全国の会計事務所さんの売上向上を営業の面からサポートしています。セミナーや研修も幅広く行っていて、税理士資格を持たない立場ながらも会計業界の最前線を理解したうえで、先生方と深くお付き合いさせていただいております。

楠本先生は近年、顧客への生命保険提案で大きな成果をあげているそうですね。会計事務所が保険を扱う意義をどう考えていますか。

楠本

私は会計事務所こそ、生命保険を扱うべきだという信念を持っています。顧問先企業の財務や経営者個人の資産をすべて把握している税理士・公認会計士は、誰よりも的確に保険を提案できるはずだからです。

また、企業や経営者と伴走型の関係にあることも重要で、日頃から継続的に交流しているなかで無理のない正当な提案が可能です。法人税・所得税・相続税・贈与税など、保険にまつわる複雑な税務を含む業務を専門的にこなせる点も強みでしょう。

さらに、経営者がお亡くなりになるような場合を想定すると、後継者の方々は相続税から保険まですべてを税理士・公認会計士に一括で委ねられます。そのあたりの安心感も非常に大きいはずです。

もうひとつ付け加えると、今後は記帳代行や申告業務がAIに奪われるといわれるなか、会計業界にはますます高度な経営支援や付加価値サービスが求められます。そこには経営計画書の作成やMAS監査、事業承継支援など難解な業務も含まれますが、保険提案はそれほど難易度が高くなく、かつお客様に明確な価値を提供できるメリットがあります。

楠本拓也
楠本拓也(くすもと・たくや)氏写真を拡大して見る ↗

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大・中規模の会計事務所が保険サービスを導入している例は少なくありませんが、楠本先生は6名体制ながら積極的に保険を活用しています。その意図は何でしょう。

楠本

たしかに、生命保険サービスは中規模以上の会計事務所でないと難しいという意見もよく聞きます。しかし、私は逆に小規模事務所ほど保険を扱うべきだと強く思います。

というのも、事務所の規模が小さければ相対的に顧客の数も少ないはずで、人件費高騰や顧問料の値下げ圧力のなかで、この先の経営は厳しくなる一方だからです。そうした状況下で、従来の税務・会計に生命保険をクロスセルすれば新たな収益を確保できます。また、大・中規模の事務所と比較して税理士と顧問先の距離は間違いなく近く、お客様も信頼感を持って保険に加入できます。しかも、生命保険を起点に、それにまつわる税務や事業承継・相続税対策へつなげることも可能です。

そのような理由から、弊事務所のような規模の皆様も迷わず保険提案を導入するとよいと思います。何よりも各保険会社の担当者さんが手厚くサポートしてくださるので、まったく心配はいりません。

保険サービスを展開していくうえで直面した課題や悩みがあれば教えてください。

楠本

独立する前に所属していた事務所でも保険を扱っていたので、私も開業直後から保険サービスを導入したのですが、最初はなかなか契約を取れませんでした。

なぜかというと、保険提案に力を入れすぎると保険で売上を立てようとしている印象を持たれてしまい、税理士としての信頼が毀損されるのではないかとの不安が心のどこかにあったからです。それで遠慮がちな提案になったり、面談の最後に付け加えるだけになったりという状況に陥っていました。そのようななかで永井さんと出会ったのです。

永井

ええ、3年前ですね。楠本先生はそのとき、ある顧問先に保険料2億5000万円という大型の法人保険を提案されていました。ですが、先方の社長は契約する気になったと思えば数日後にはやっぱりやめるという感じで揺れ動いていて、半年間の堂々巡りの末、失注寸前となっていました。楠本先生としては、その会社には必要な保険であり、その保険に加入してくれさえすれば経営者も従業員も守り抜ける確信があるのに無念だと……。

楠本

私はそれまで半年の間、保険の必要性を丁寧に説明し、社長も理解を示してくださっていました。しかし、なかなか踏み切れないということで、さすがに無理かなと。

永井

そんな折に楠本先生が私のことを見つけてくださり、STA営業塾(実践的な営業力をテキスト教材や動画で学ぶ永井氏主宰の経営者向けセミナー)に入会してくださったのです。さらに個別コンサルティングのご依頼もいただき、1週間かけて営業のトークフローや提案のプロセスを一緒に作り込みました。そして、それを持って先生が改めて社長に面談に行かれたところ……なんと即契約となったのです。

永井恭介
永井恭介(ながい・きょうすけ)氏写真を拡大して見る ↗

価値を正しく理解してロジカルに伝える

半年かけても決まらなかった案件が、わずか1週間のコンサルティングで成約に転じたという……その秘訣は何だったのでしょう。

楠本

お断りしておきますが、社長を無理やり説得したわけではありません(笑)。最大の要因は、「価値の伝え方」を学んだことだと思っています。A4紙1枚のテンプレートをもとに、永井さんにご指導いただきながら、提案する内容と話の構成・順序をまとめ、それに則って社長にプレゼンテーションをしたのです。

そして、もうひとつ大きかったのが、どこか遠慮がちだった私自身のマインドが変わったことです。永井さんと出会い、コンサルティングを受けるうちに、自分で自分をブロックしていたことに気づき、それを解除することができたのだと思います。

永井

私は楠本先生から相談を受けた時点で、そのテンプレートを活用すれば絶対に成約に持っていけると確信していました。なぜなら、すべては提案の組み立て方と伝え方次第であり、ジャパネットたかたの創業者=高田明氏の言葉をお借りすると、「提案次第でいくらでも商品の価値は伝えられる」からです。