承継計画のないまま33歳で代表に
FUN税理士法人は、未来会計を積極的に展開する高付加価値型事務所として広く知られています。本日は代表の山岸先生に、会計事務所の付加価値戦略について伺います。まずは、事務所の沿革についてお聞かせください。
1993年に父が開業した山岸公認会計士事務所が始まりで、2011年に税理士法人化してFUN税理士法人になりました。現在は新潟市中央区に拠点を構え、従業員は37名です。法人の顧問先は370社ほどあります。
組織としては、税務顧問を担うFUN税理士法人と、経営計画づくりやMAS監査といった経営支援を担う株式会社FUNコンサルティングを中心に、FUNコンサルティンググループとして動いています。
私たちは「過去会計」「未来会計」と呼び分けていて、過去を整えるのが税理士法人、未来を設計するのがコンサルティング会社という役割分担です。
山岸先生が代表になられた経緯をお聞かせください。
2017年に父が突然、自宅で倒れました。これはまずいと思い、私は仕事中でしたが自宅に駆けつけ、人生で初めて父と救急車に乗りました。
父は病院に1カ月ほど入院しました。今は元気で、ゴルフもできるほどに回復しています。
そのとき父から突然、「家族と会社を頼む」と言われました。明確な事業承継計画は、実はなかったのです。当時の私はマネージャーで、役員ですらなかったのですが、急遽その年に役員になり、翌年には代表になりました。私が33歳のときのことでした。自分の人生のなかでも、かなり大きな出来事です。
当時でも30名以上のスタッフがいて、圧倒的に私より入社歴の長い方ばかりでした。特に幹部、役員は全員が私より上でした。
父は思い切って任せるタイプです。私が役員になってからは、年1回の決算報告以外は役員会に一切出ず、私に任せる形になりました。年上の役員の方々を取りまとめて仕切っていく立場に、突然なったのです。
最初のうちは無我夢中で、どうしたらいいのかと悩む毎日でした。

お客様に貢献する仕事を古田土会計で知った
現在の山岸先生は、そのような大変な状況を乗り越え、経営計画策定支援で大きな成果を上げています。原点は、どこにあったのでしょうか。
私はもともと会計士として監査法人に勤めていたのですが、その後、税理士法人古田土会計さんのところで働かせてもらっていたことがあり、それが大きいと思います。
古田土会計さんは、掃除、挨拶、朝礼を大事にしていました。理念、ビジョン、価値観の大切さを、私はここで初めて教わりました。それを一生懸命に浸透させようとし続けているところがすごいと思いました。しかも、月次決算と経営計画書をずっとやり続けていて、自社でも実践しているのです。自事務所で実践して成果が出ているから、お客様にもサービスとして自信を持って提供できる。お客様に喜ばれるというのはどういうことか、このとき初めて分かりました。
古田土会計さんで働いているとき、私は自分が税務のプロフェッショナルになりたいわけではなく、お客様に貢献できるサービスを提供したいのだと気づきました。
人生で一番働いた時期でした。上司をはじめ、いろいろな方からたくさんのフィードバックを受けました。自分の人間的な未熟さや至らないところが、フィードバックのおかげでよく分かりました。厳しかったのですが、今思うとありがたかったです。
ちょうど1年ほど働かせてもらい、2013年にFUN税理士法人で働き始めました。
理念がなければ組織は成り立たない
急に代表の座に就いたあと、体制を固めていった取り組みについても伺います。
古田土会計さんで学んだのは、理念なくして人をまとめ、組織として動かすことはできない、ということです。これが、私の経営者としてのベースになっています。
そこでまず、2018年に事務所のクレドカードを作り、ミッション、ビジョン、バリューを定めました。そして、全員参加の合宿で、1日かけて共有しました。
ミッションには、父が創業のときから大切にしてきた、社員やお客様を幸せにしたいという思いを込めています。父はもともと、スタッフと一緒にお客様に喜んでいただき、スタッフも経営に参加できる、運命共同体のような事務所を作りたいという思いで独立しました。いろいろなことを変えてきましたが、この理念だけは変えずに受け継いでいます。理念を引き継ぐことこそが、私の使命だと思っています。
経営計画書は、どのように作って、社内で使っているのですか。
ミッション・ビジョン・バリューを土台に、未来像を中心とした経営計画書を作り直し、2019年からは私が毎年作っています。事務所の数字を公開するだけでなく、社員の未来像や、戦略とは何かも書き込んでいます。
毎年の経営計画発表会では、私だけでなく、社員もパートさんも全員が発表します。明るい未来像を共有すると、社員も共感して協力者になってくれるのです。経営はガラス張りにして、目標を達成できたかどうか、どれくらい還元できるかも、全て伝えています。
同じ2019年には、稲盛和夫さんの盛和塾にも入り、経営の考え方や原理原則を学びました。盛和塾はその年に解散してしまいましたが、本当に直前に入ることができたのです。今も毎月1回、社員全員でフィロソフィの勉強会を開いています。
父との2人代表の時期を経て、2023年1月からは私ひとりが代表を務めています。振り返ってみれば、経営計画書に全力で取り組むことで、事業承継を乗り越えることができたと思います。
そして、自社で実践してよかった経営計画書を使った経営を、お客様に広めていきたいという思いが、2024年からの経営計画作成ワークショップにつながっていきます。
実践しているから勧められる
現在の事務所の体制を教えてください。
体制は、従業員数が37名で、社員が26名、パートが11名です。急成長はしていません。年輪経営(木の年輪のように少しずつ確実に成長する経営)ではないですが、じわじわと成長しています。2025年のグループの付加価値は4億700万円です。
生産性やひとりあたりの付加価値はかなり意識しています。2010年以降、16年連続で、売上高経常利益率15%以上を維持しています。お客様に高収益になっていただくからには、自社が実践しないといけないと思っています。
古田圡先生も同じようなことを仰っていました。
そうですね。会計事務所は、お客様のモデルにならなければならないと思います。
当事務所の法人顧問は今370社ほどありますが、黒字率は71・9%です。世の中は7割が赤字企業と言われているなかで、本当にいいお客様に恵まれていると思います。
前回の取材から4年、ご自身の役割はどう変わりましたか。
当時の私は、「もっとMAS監査に注力したい」「県内ナンバーワンを目指したい」と言いながら、新卒採用や自分の社労士試験など、いろいろやりすぎてしまった部分がありました。そこで2026年7月からは、5年ほどずっと私がやっていた採用も、他の役員に任せることにしました。
