株式会社日本M&Aセンター(東京都千代田区)は、3月20日にタイのウェスティングランデスクンビットホテル(バンコク)で、日本M&A協会の国際会議を開催した。本稿
では会議の概要を報告する。
M&Aは成長戦略と出口戦略のよい選択肢
日本M&A協会理事長 岩永經世
お集まりの皆様は、確定申告が無事終わり、すっきりした気持ちでこの会議に参加されているのではないかと思っています。
さて、国際会議について調べてみますと、1994年に上海で第1回が開催されてからもう30年経ちました。その間、日本M&Aセンターには世界のさまざまな国で国際会議を
開いていただき、私も見聞を広げることができたことを心から感謝します。
今回も多くの方々にお集まりいただき、今日、明日と会議を通じて皆様と交流させていただく機会を得て、いろいろなことを学ばせていただきたいと思っています。
昨年あたりから、私たち戦後世代が70代後半から80歳という年齢になり、事業承継が極めて大きな課題として浮上しています。
私の事務所にも、世代交代をした若い経営者の方々から、新たな成長戦略をどう描けばよいのかという相談が寄せられており、中期経営計画策定支援教室「将軍の日」の参加者
が増えている状況です。
若い経営者は成長戦略として、そして70代の経営者は事業を次世代にどう引き継いでいくかという出口戦略として、いずれもM&Aがとてもよい選択肢になっています。
この国際会議にお集まりの全国の会計事務所の皆様が、これからの時代をつくっていくためのリーダーシップを発揮していただきたいと思います。
M&Aの潮流
日本M&AセンターHD
代表取締役社長 三宅卓
先生方とこのように日本の未来を語り合うことを非常に楽しみにしておりました。本日は「M&Aの潮流」についてお話しさせていただきます。
2024年には、詐欺的行為をはたらく悪質仲介業者が出現しました。これは日本の中小企業M&Aの歴史において初めての事態です。多くのメディアで報道され、昨年はこうした悪質業者の話題が注目された印象があります。
このような状況が生まれた背景には、M&A仲介会社(ブティック)の急増があります。私の感覚では5年前は約30社だったブティックが、現在では700社にまで増加してい
ます。その結果、次のような問題が発生しました。
まず第一に品質の低下です。皆様もご存知の通り、M&Aは決して簡単なものではありません。
第二に業界の常識が失われました。連帯保証の解除など当然行うべきことが、単なる努力目標になってしまっています。悪質業者はこの状況につけ込み、多数の企業を詐欺的に安く買収し、前オーナーの連帯保証を解除せずに現金を抜き取った後、破産させるという行為を繰り返しました。これにより前オーナーは自己破産に追い込まれるという社会問題が発生しています。
第三に倫理観の欠如です。現在700社のブティックが先生方の顧問先に毎日のように電話やダイレクトメールを送っています。特にたちが悪いのは、「あなたの会社を高く買いたい会社があります。一度会いませんか?」といったフィッシング広告の横行です。
こうした状況を改善し、健全な業界にするため、私たちは3年前に一般社団法人M&A仲介協会という自主規制団体を設立しました。現在はより広く先生方にもご参加いただけ
るよう、一般社団法人M&A支援機関協会に名称を変更し、181社が加盟しています。全体のM&A成約件数の約70%を協会の会員がカバーしており、業界の自主規制団体とし
て第一段階は成功したと考えています。
中小企業庁も「中小M&Aガイドライン」を策定していますが、それだけでは不十分です。そこで当協会では自主規制ルールを作成し、モラルの向上や広告の健全化、業務品質
の向上などに取り組んでいます。さらに、詐欺的業者やその予備軍の情報を共有するための「特定事業者リスト」も整備しました。
これらの取り組みについては、今年2月に日本経済新聞に意見広告という形で発表し、官民各界の識者の皆様にご発言いただきました。
同協会は今年から名称変更だけでなく、理事構成も変更し、公認会計士協会、弁護士会、地方銀行協会からも理事を迎え入れ、より健全な業界づくりを進めています。
日本はM&Aなくしては三流国、四流国に転落しかねない状況です。今後10年間で100万社の中小企業が廃業すると予測されています。皆様の顧問先を調査すれば明らかです
が、倒産の13倍が廃業です。例えば倒産が50件であれば、廃業は650件に上ります。また、働き手もどんどん減少し、中小企業では人材確保が困難になっています。このような状況下でM&Aの必要性が高まっており、社会からの期待も大きくなっています。
最後に申し上げたいのは、日本M&Aセンターは先生方のご出資により1991年に分林名誉会長が立ち上げたものであり、先生方がつくった会社です。それが今や大きな潮流
となり、日本に中小企業のM&A業界を創出しました。これをより素晴らしい業界に育てていきたいと考えています。
2025年問題、団塊の世代が75歳を超え、中小企業・小規模事業者の経営者約245万人が70歳を超えた今、これからがM&Aの本番です。ぜひ先生方と共に、このM&Aを通じてより素晴らしい日本を創造していきたいと思います。
M&Aパラダイムシフト
株式会社日本M&Aセンター
代表取締役社長 竹内直樹
日本M&Aセンターの竹内でございます。私は2024年4月から代表取締役社長に就任いたしました。2000年に社会人生活をスタートし、ノンバンク業界を経て、2007年に日本M&Aセンターに入社、現在で丸18年が経過しております。入社以来、一貫して買収側の立場で業務に携わってまいりました。
本日は「M&Aパラダイムシフト」についてお話しさせていただきます。
2024年は、M&A件数が過去最高の4700件を記録しました。ただし、これはIRで公表された件数のみであり、実際には公表されていない案件も多数あります。実際の
件数は公表数の3〜5倍、つまり1万5000件から2万件程度が国内で行われていると考えられます。
このような状況のなか、国もM&Aを積極的に推進しており、皆様方も各種補助金や準備金などを活用して企業をご支援されていることと思います。こうしたなか、M&A業界
は大きな転換期を迎えていると考えております。
矢野経済研究所が発表したデータによると、日本国内における売上高1億円以上の企業のうち、事業承継を検討している企業の需要見通しは2035年、今から10年後がピークとなっています。もちろん、その後も一気に減少するわけではなく、M&Aによる事業承継の需要は10年後、15年後、20年後も一定程度続くことが予想されます。
ただし、今後は事業承継だけでなく、企業再編や成長戦略を目的としたM&Aが主流になっていくでしょう。
その背景にあるのが生産年齢人口の減少です。現在、全国で7300万人いる生産年齢人口が、20年後には5800万人、つまり20%も減少するというデータが出ています。いわゆる「8割経済」の到来です。
例えば、現在売上高10億円の企業が、これまで通り一所懸命経営戦略を実行しても、20年後には売上高が8億円になってしまうということです。
この「8割経済」に対応するための成長戦略は、私は2点だと考えています。1点目は生産性向上、2点目は外貨獲得、つまり海外進出です。
当然のことながら、トップラインが徐々に減少していく状況では、生産性を向上させて収益を確保し、賃金水準を維持することが重要です。また、内需の減少に伴い、海外から
収益を得る必要性も高まります。この2点がシンプルながら重要な対応策だと考えています。
そして、これらの課題はM&Aによって解決可能であり、むしろM&Aでしか解決できない面もあるのではないでしょうか。
まず1点目の生産性向上について考えてみましょう。その代表的な手段はデジタル化の導入です。ただし、例えば社員が5人程度の小規模企業で、社長の奥様が手書きで帳簿をつ
けているような場合、中途半端なデジタル化はむしろ生産性を低下させる可能性もあります。しかし、この5人規模の会社が50人規模の会社と統合し、そこでデジタル化を進めれば、規模の経済が働いて確実に生産性が向上します。これこそがM&Aの効果であり、価値なのです。
そしてもう1点、海外進出についてです。現在、日本の中小企業が単独で海外に進出することは容易ではありません。言語も宗教も文化も全く異なる環境に飛び込むことは、多
くの企業にとって大きな障壁となっています。確かに内需が減少するなかで海外進出の必要性は高まっていますが、それは現実的ではないと考える経営者も多いでしょう。しかし、私はこの課題もM&Aによって解決できると考えています。
具体例をご紹介します。数年前、鹿児島県の建設会社(当時の売上高は約50億円)がベトナムに進出した事例があります。この会社は地方の建設会社として人材採用に苦戦し、
将来に不安を抱えていました。東南アジアからの人材確保も検討していましたが、優秀な人材の確保は難しい状況でした。
そこで私は社長に提案しました。
「3000万円だけ出資していただけませんか?」と。ベトナムの売上高約3億円の企業に3000万円を出資してもらったのです。これは限定的なリスクを取りながら、東南ア
ジア進出の足がかりをつくる戦略でした。
興味深いことに、3000万円の出資をきっかけに交流が始まりました。鹿児島の社長は毎月のようにベトナムを訪問するようになり、その会社を通じて現地の優秀な大学卒業
生を技能実習生として鹿児島に招くことができました。さらに最近では、鹿児島の工務部長がベトナムに赴任し、現地企業への技術指導を行っています。この工務部長は家族も帯同しました。
これは非常に感慨深い出来事でした。鹿児島で生まれ育ち、地元の高校を卒業して建設会社に20年勤め、工務部長まで昇進した方が、おそらく海外で働くことなど想像もしてい
なかったでしょう。しかし今、家族とともにベトナムで新しい経験を積んでいます。子どもたちも異文化体験という貴重な機会を得ています。これこそが中小企業の未来のあるべ
き姿であり、M&Aによって実現できたのだと思います。
このように、海外進出のきっかけを国内の中小企業に提供することも、M&Aの重要な役割だと考えています。「8割経済」時代の成長戦略として、生産性向上と海外進出の両面
をM&Aの力で推進していきたいと思います。
日本M&Aセンターは、皆様方のご支援のおかげで、今年3月末には累計成約1万件を突破する見込みです。ギネス世界記録も獲得しておりますが、この累計成約1万件という
社会貢献の実績を、今後も皆様方と共にさらに伸ばしていきたいと考えております。
会計事務所の皆様方に対する私の思いをお話しさせていただきます。現在、M&A業界は一般化され、M&Aの仲介業者は700社にまで増加しました。「何でもかんでもM&
Aをしましょう」という提案が増え、経営者の皆様方にとってもM&Aは当たり前の選択肢となる時代になりました。
しかし、現在の大きな課題は「成約率」だと考えています。例えば、上場ブティックファームに依頼した100社のうち、実際に成約に至るのはわずか15〜30社というデータが
あります。日本M&Aセンターでも成約率は47%であり、まだまだ低いと認識しています。
当社は地方銀行や証券会社などさまざまな機関とネットワークを構築し、ダイレクトマーケティングも行っておりますが、特筆すべきは会計事務所の先生方からご紹介いただいたお客様の成約率が56%であり、他と比較して圧倒的に高いという点です。
これは、先生方が長期にわたってお客様に寄り添い、築き上げてきた信頼関係があるからこそ実現できているM&Aだと考えております。
私は以前、有望な会社を売却したいという社長さんからご相談を受け、担当させていただいたことがあります。しかし、恥ずかしながらその案件を2年間も進展させることができ
ませんでした。
そのとき、社長さんから、「竹内さん、私はこの2年間、経営においてアクセルとブレーキを同時に踏みながら会社を運営してきたんですよ」と言われました。
その言葉を聞いて、私ははっとしました。
皆様もご存知のとおり、M&Aを仲介会社に依頼すると、経営者は「もう相手が決まるのだな」という気持ちになります。そうなると、大きな設備投資や新規雇用に消極的に
なってしまうのです。これを、社長さんは「アクセルとブレーキを同時に踏んでいた」と表現されました。
このような状態の企業が1万社、10万社と増えていくと、日本経済全体の鈍化につながると考えています。
中小企業が元気でしっかりと経営を続けることが重要です。M&Aを検討するならば、しっかりと決断することが大切です。これこそが私たちの使命であり、社会貢献だと考え
ています。会計事務所の先生方と共に、この課題に取り組んでいきたいと思います。
帝国データバンクの最新調査によると、M&Aの相談先としてメインバンクが53%で最多、次いで税理士事務所が35%となっています。この税理士事務所への相談割合をさらに高めていくことが社会貢献につながり、国内のM&A成約率向上に寄与すると考えています。皆様方のお力添えをぜひお願いしたいと思います。
日本M&Aセンターは業界のリーディングカンパニーとして、安全・安心な取り組みを徹底しています。私たちは「M&Aは物や商品の売買ではなく、不動産取引とも異なる」
という考えを大切にしています。M&Aには「心」があり、その心と心を紡いでいくことがM&Aの本質です。日本M&Aセンターは、この理念を最前線で、最先端の手法で、そして最大規模で実践しています。皆様方のご支援のもと、これからもM&Aを推進していきたいと考えております。
AFTER 2025会計事務所の潜在能力
株式会社日本M&Aセンター
提携統括事業部統括部長 上夷聡史
今日は「会計事務所の潜在能力」というテーマでお話をさせていただきます。会計事務所が持つ高いポテンシャルについて皆様と共有し、その潜在能力を引き出すためのヒントとなるような時間にできればと考えております。
会計業界を一言で表現すると、僭越ながら「Robust But Asleep」(屈強だが休眠状態)だと感じています。前置きしておきますが、本日ご参加いただいている先生方は「Asleep」(休眠状態)ではありません。ここでは会計業界全体という形で捉えていただければと思います。
まず、会計事務所が「Robust」(屈強)である理由をまとめました。
会計事務所は常に社会の課題、経営課題に向き合って仕事をされてきたと私は考えています。高度経済成長期には、経営者の方々はとにかく外に出て営業活動に集中する時代でした。日本が急成長していくこの時代に、経営者のニーズは記帳や税務でした。そこを会計事務所がお手伝いし、重要な役割を担ってきました。その後、1990年代にバブルが弾
け、資産税対策や相続対策の問題が出てきました。さらに事業承継問題も大きくクローズアップされるようになりました。時代が変化し、中小企業が抱える課題やニーズもまた変
化するのに合わせて、先生方はそれに応え続けてきたのです。
2025年を迎えた今、非常に難しい時代に入ってきていますが、この「社会課題に向き合う」という軸がぶれないかぎり、この業界は引き続き「Robust」であり続けると感
じています。
先ほど竹内も話したように、これからは事業承継を考える時代から、成長戦略を考える時代へと潮目が変わります。超高齢化、ゼロ成長、AIの台頭、2040年には東京でも
人口減少が始まるという状況のなかで、私たちは何をしていくべきでしょうか。それは、事業承継、相続対策、経営支援、そしてM&Aによる解決策の提供です。また、人材不
足に対応するためのBPO支援やDX支援なども、先生方が担うべき重要な役割になってくるでしょう。この軸をぶれさせずに進んでいくことが、これからの時代に最も大切なこ
とだと考えています。
次に、「Asleep」についてお話しします。
以前、私がM&Aをお客様に提案しようとすると、多くの先生から「うーん。でも……」というような反応がありました。私はそんな先生方の様子を見て、「大きな可能性があるのにAsleepなのでは……」と感じていました。しかし、実は先生方は休眠状態なのではありません。ただ課題が山積みなだけなのです。
事務所の人材採用・育成もしなければならない、生産性も上げなければならない、事務所のDXも進めなければならない。さらに顧問先は減少し、顧問報酬を減らさなければならない状況です。加えて事務所の出口戦略も考えなければなりません。M&Aを含む付加価値業務に取り組みたいという意欲はあるものの、3つの大きな障壁があります。それは「時間がない」「人がいない」「やり方が分からない」という状況です。逆に言えば、これらの課題を解決すれば、会計業界には非常に大きなポテンシャルがあると私は考えています。
ここで、私がWake Upした出来事についてお話ししたいと思います。かがやきホールディングスグループの稲垣靖先生をご存知の方も多いと思います。私が稲垣先生と出会ったのは2018年です。先生が新宿にある事務所を譲り受ける際、私はその事務所の担当でした。
通常のM&Aプロセスでデューデリジェンスを進めていくなかで、とても印象的な場面がありました。
売り手側の事務所に所属していた税理士先生が、稲垣先生に「事務所をなぜ大きくしたいのですか?」と質問されたのです。その言葉には、組織を大きくしたがる方はいますよ
ね、というニュアンスが含まれていました。
しかし、稲垣先生はきっぱりと答えました。「私は中小企業の応援団として、経営者によいサービスを届けたいと思っています。社会への貢献を考えたら、事務所を大きくして
いくしかありません」と。
それを聞いたとき、私はWakeUpしました。こんな先生がいらっしゃるなんて、会計業界はすごい業界だ。ポテンシャルがとても高いと感じました。私はそれをきっかけに、業界内にはWake Upしている方々がたくさんいることに気づきました。
例えば、昨年マドリードでMVPを獲得したMIKATAグループの柴田昇先生。初めてお会いしたとき、「グループで200億円を目指します」とおっしゃり、その感覚に驚きましたが、それを実現しようとされています。柴田先生の事務所では、人材育成・採用の課題に対して、未経験者でもコミュニケーション能力のある人材を積極的に採用し、付
加価値のあるサービスを提案できるよう育成する仕組みをつくっています。
また、税理士法人KMCパートナーズの木村智行先生は、すべての経営者からライフプランをヒアリングし、社長の夢や実現したいことをしっかり把握したうえで、事務所として提供できることを丁寧に検討されています。
ベンチャーサポート税理士法人も興味深い取り組みをしています。その名のとおり膨大な数のベンチャー企業を顧問先に抱えていらっしゃるのですが、ベンチャー企業に対し、
規模の大小を問わずM&Aを熱心に提案しています。弊社の担当者が昨年30回ほど勉強会を実施させていただき、年間70 社以上の訪問を一緒に行わせていただきました。
私たちも昨年、新しい取り組みを始めました。株式会社マネーフォワードさん、株式会社ヒュープロさんとタッグを組み、「次世代会計事務所Growth Academy」を立ち上げました。人材、DX、税理士としての課題について、単に勉強するだけでなく、実践的に取り組む7カ月間のプログラムです。大きな手応えを感じており、今年も開催する予定ですので、ぜひご参加いただければと思います。
このような動きのなかで、理事会員の数も増加しており、現在1060事務所となりました。来年は1100〜1150事務所を目指しています。業界を動かすにはまだ力が足りないと考えていますので、この数を大切にしていきたいと思います。
また、理事会員の先生方からの売受託数は、2024年度で290件となり、前年度の262件を更新しました。ネットワーク稼働率も27.4%と市場最多を更新しており、活性化が進んでいることが分かります。
「未来は偏在している」という言葉があります。これはソフトバンクの孫正義さんの言葉です。これは「特定の場所に行けば、未来は既に見えている」という意味です。会計業界にも、私はそれを強く感じています。
全国の会計事務所を回ると、RPAのロボットが200体ほど動いている事務所や、AIとRPAを活用して法人の申告書・決算書を自動作成する取り組みをしている先生もい
ます。人材育成では、税理士試験の1カ月前に休暇を取得できる制度を導入している事務所もあります。
第三者承継を重視する先生、業務効率化のためのシステムを開発し、業界に広げている事務所、DX導入時の「死の谷」(投資に売上が追いついていない時期)を乗り越える方
法を模索している先生、職員15人で売上5億円を達成している会計事務所、年収1200万円を超える平均給与を実現している事務所、さらには年収4500万円を稼ぐ職員がいる会計事務所まであります。
お金が全てではありませんが、付加価値の高い業務を行うことで、このようなことも実現できるのです。
会計業界には、このほかにもすごい取り組みをしている先生方がたくさんいらっしゃいます。このようなネットワークはほかにはありません。
だからこそ、「M&A相談は会計事務所へ」が当たり前となる時代をつくりたいと考えています。M&Aの相談が銀行ではなく会計事務所に来るような時代を皆でつくりたいと
思います。われわれもそのお手伝いをしたいと考え、30年続いた理事会制度も刷新し、よりよいものにしていきたいと思います。
昨年、先生方にアンケートを実施しました。「理事会に入会を決めたポイント・目的は何ですか」という質問に対する上位3つの回答は、「M&A業務を提供できるようにするため」「M&A業務を収益化するため」「自身の知識習得・研けん鑽さんのため、事務所職員のスキルアップのため」でした。つまり、「仕組みをつくる」「ビジネスとして収益化する」「勉強する」の3つが重要であり、これらを軸に理事会制度を刷新していく必要があると考えています。
仕組みづくりについて具体的にお話しすると、私たちが先生方と一緒に取り組んでいるのが「セカンドオピニオン戦略」です。さまざまなM&Aブティックや金融機関が、経営
者にM&Aを提案するなかで、最終的には先生のところに相談がくるような仕組みをつくることが重要です。顕在化しているニーズを取りこぼさないよう、先生方と一緒に取り組んでいます。
また、仕組みづくりのもうひとつの取り組みとして、潜在ニーズを掘り起こす「問題の発見」まで取り組みたいと考えています。従来は事業承継の面からM&Aを提案すること
が多かったのですが、これからは問題発見がより重要になってくるでしょう。
具体的には、事務所内での勉強会を通じてM&Aの知識を深め、関与先分析を行って顧問先にどのような提案が喜ばれるかを検討しています。M&Aに限らず、保険や不動産、コンサルティングなどさまざまな提案がありますが、われわれのM&Aの知見を生かして、一緒に分析させていただいています。
また、顧問先のポートフォリオ分析を行い、3年後に何が必要になるかを予測し、管理していくことも重要です。分析後の打ち手を考えることが大切で、例えば文章を読まない
社長には漫画を渡したり、話を聞くのが好きな社長にはセミナーに参加してもらったりするなど、個別のアプローチが必要です。
セミナーは非常に有効な手段です。我々の統計では、セミナーに参加した方とそうでない方では、M&Aを検討する成約率に差があります。すぐに実行するかどうかは別として、
まずは知識を得ておくことが重要です。
さらに、ITツールも充実させています。取引事例法評価システム「V COMPASS」、M&AプラットフォームのBATONZなどがあります。
また、各種ツールや提案資料をまとめたポータルサイト「MARINA」もご用意しています。
プラチナ・ゴールド会員制度も、M&Aで社会貢献した証として広げていきたいと思います。現在、プラチナ会員17事務所、ゴールド会員42事務所が登録されていますが、これ
をもっと増やしていきたいと思います。
「勉強したい」というニーズにも応えていきます。国際会議の形式も変えながら、来年に向けてパワーアップしていきたいと思います。
また、会計事務所の2代目・3代目の所長が有志でつくる「次世代会」も各地で活動しています。とても勉強になる会だと思いますので、ぜひ参加していただきたいと思います。
今年は「M&A塾」も試験的に東海地方からスタートします。また、1泊2日でM&Aの全プロセスを体験する「M&Aキャンプ」も10月に東北で開催予定です。全国からご参加いただければと思います。
地域支部会も昨年しっかりと開催し、先生方と交流して生の声を聞くことができました。今年は北海道の先生が九州に来たり、九州の先生が北海道に行ったりと、地域を超えた交流を活発化させたいと思います。
そして、今回のようにバンコクに集まり、ベクトルを共有する機会をもっとつくりたいと思います。
今回は200人の先生方に参加いただいていますが、830事務所ほどは来ていただけていないことになります。皆で集まってM&A業界を広げ、会計事務所をもっと活性化させるために、総会をより大々的に開催したいと思います。
私は、会計事務所は「RobustBut Asleep」であると申し上げました。しかし本当のところは、私自身が、かつては会計業界に対して「Asleep」だったという側面があります。
会計事務所には極めて大きなポテンシャルがあり、特にM&A業界では今がチャンスだと思います。本日はこのポテンシャルを皆様と共に認識し、引き出していく1日になればと思います。

タイの経済動向、税制、クロスボーダーM&A事例
続いて、タイの経済動向や税制、M&Aの事例に関する講演があった。
アユタヤ銀行ビジネスソリューション部長の森賢太朗氏が、「タイの経済動向」というテーマで講演を行った。
Phoenix Accounting(Thai -land)Limitedの上原重典氏が、「タイを中心とした税制、日系企業のトレンド、ASEAN進出撤退について」と題して講演を行った。
Nihon M&A Center(Thailand)CO., LTDの木川貴之亮氏が「クロスボーダーM&A事例」、BizWings(Thailand)の倉地準之輔氏が「タイにおけるM&A財務デューデリジェンス」というテーマでそれぞれ講演を行った。
会計事務所の成長戦略
サステナブルなビジネスモデルの構築
かがやきホールディングス株式会社
代表取締役社長 稲垣靖
ここにいらっしゃるのは、日本を代表する会計事務所グループの代表、もしくは幹部の皆様だと思います。私たちは公認会計士であり税理士ですので、私たちの組織は税理士法人
が中核になるだろうと思います。
しかし、税理士法人は税理士法の規制下にあります。税理士法によると、税理士法人のパートナーになれるのは税理士資格を持つ人だけであり、合併や社員の加入脱退などの重
要事項は全社員の同意が必要です。このような規制のなかで、私たち会計事務所グループは成長戦略や事業承継について解決策を見いださなければなりません。皆様もさまざまな
形で試行錯誤されていることと思います。
回答はひとつではなく、さまざまなパターンがあるでしょう。
本日は、かがやきホールディングスグループが取り組んでいる対応策・ビジネスモデルをご紹介します。皆様のご意見をいただき、ご賛同いただける方があれば一緒に取り組ん
でいきたいと考えています。
サステナブルなビジネスモデル――税理士法の規制のあるなかで、私たちの成長戦略と事業承継、そしてわれわれのつくったこの組織を持続可能なビジネスモデルにするという
提案です。
私たちが大事にしているのは経営理念です。私たち会計事務所は中小企業に非常に近く、いなければならない存在です。全仕訳データを持って会社の中身を知り、アドバイスが
できる立場にいる。このような立場で中小企業の存続・発展に貢献する応援団でいたい――これがかがやきホールディングスグループの経営理念です。そして、そのような活動を通して、私たち全員の物心両面の幸福を追求したいと考えています。
ただ、経営理念だけではスタッフは行動しにくいということで、かなり時間をかけて考えたのが行動規範です。
この行動規範は5か条あります。第1条は「自利利他」で、これは最高規範です。続く第2条「真面目で誠実」と第3条「プロフェッショナル集団」は基礎的な規範です。例え
ば第2条は姿勢や考え方の問題であり、私たちは真面目で誠実でなければいけないし、応援する会社様も同様に真面目で誠実である必要があります。第3条は当然のことで、税制改正があれば勉強し、新しい経営や財務の考え方が出てきたらまた勉強するなど、常にインプットを続けるという意味です。
その上で、発展的な規範として第4条に「ワクワク感」があります。これは、より深い感性や美意識に関連するものです。
どういうことかというと、現代では単に数字で分析してA案とB案を比較しても、必ずしもA案が明確に有利とは限らない状況が増えてきました。文化の時代となり、最後の判
断基準は直感や感性に委ねられることが多いのです。その直感や感性を磨くために、美意識を磨く必要があります。
私たちのグループでもクラシックコンサートに行ったり、美術館に足を運んだり、映画を見たり、本を読んだりすることを奨励しています。KPIとして設定するのは難しいで
すが、こうした活動については積極的に話し合うようにしています。
感性を磨くことで、仕事のなかでA案とB案で迷ったときに、感性にもとづく選択が、結果として会社の役に立つことがあります。そのときに抱く感覚が、「ワクワク感」の意
味するところです。
そして第5条は「変化を恐れない勇気」、つまり変化への柔軟な対応を求めています。
これらの5か条が実践できると、自分自身が一生懸命勉強し、クライアントにサービスを提供し、クライアントが喜び、成果が出ることで私たち自身も嬉しい――という状態が
実現します。これがかがやきホールディングスグループの経営理念と行動規範です。
かがやきホールディングスグループにおける「優秀な人材」とは、この行動規範に沿った行動ができる人を指します。優秀な人材がほしいといったときには、こうした行動規範
を体現できる人材を求めているということです。私たちの人事制度、審査制度、評価制度、採用など、全てがこの経営理念と行動規範につながっています。
私たちはいくつかのサービスを提供していますが、セグメントでいえば2つあります。一つは人材派遣事業、もう一つはコンサルティング事業です。
ここで市場環境についてお話しします。中小企業や中堅企業には多くの経営上の不安があります。20年から30年前には記帳代行やコンピューター導入のニーズがありましたが、
現在では売上高や成長率の低下、コスト高への対応の限界、DXへの対応の遅れ、バックオフィスの低生産性、税務会計への偏重、後継者不足、人材不足、時代に合った働き方への対応の遅れ、資産の有効利用・最適化への対応不足、想定外の事態への対応など、多くの課題が存在しています。
私たち会計事務所グループは、こうした問題を抱える企業に対して、解決策を提案すべきなのです。
政府や金融機関も中小企業をサポートするとは言っていますが、マンパワー不足で十分にサポートできていない状況です。ワンストップで対応できる、あるいはリーズナブルな価格でサービス提供できる企業もほとんどありません。
一方で、サービス提供が縦割りで、手続き中心の会計事務所が本当に中堅・中小企業のニーズに応えられているのか――そうした疑問が生じます。
そこで、私たちの考え方を提案いたします。
私たちのビジネスモデルは、かがやきホールディングスグループを中心に構築されています。私はかがやきホールディングス株式会社の代表取締役であり、グループ内にはかが
やき税理士法人、かがやき社労士法人、かがやき行政書士法人があります。このような構造で、企業のニーズに応える体制を整えています。
次に、この株式会社と税理士法人の関係について説明します。
私たちはまず、人材派遣事業を通じて、かがやき税理士法人にプロフェッショナルな人材を派遣しています。さらに、経営コンサルティングのサービスも提供しており、これらのコンサルティング会社は税理士法人だけでなく、その先にいる中堅中小企業のクライアントにもサービスを提供しています。こうして、私たちのビジネスモデルを構築してい
るのです。
また、地方自治体へのサービス提供も行っており、コンサルティング事業の一環として地方自治体に直接サービスを行っています。ここで重要なのは、株式会社から税理士法人
に派遣されたプロフェッショナル人材が、税理士法人を通じて中小企業のお客様に税務サービスを提供する点です。
具体的には、株式会社からプロフェッショナル人材を税理士法人に派遣し、その人材が税理士の指揮監督のもとでクライアントに税務サービスを提供します。中小企業には多くの経営課題や悩みがあり、派遣された人材がそれらのニーズを拾い上げ、税理士法人を通じて株式会社に情報提供するという流れです。
私たちのビジネスモデルは、中小企業向けに提案し、合意が得られればサービスを提供するという形をとっています。このプロフェッショナル人材は、単なる人材派遣とは異なります。税理士法人のスタッフをそのまま派遣するのではなく、株式会社で研修制度を整え、必要な専門知識やノウハウを身につけた人材を派遣します。ここでは、税理士業務
だけでなく、BPOサービスやDX支援、管理会計の導入、M&A、不動産ソリューション、リスクマネジメントなど、中堅・中小企業の支援に必要な知識・スキルを研修します。こうした研修を受けたスタッフが派遣されることで、クライアントのニーズを的確に把握し、それを基に提案を行うことが可能になるのです。
税理士法人にとってのメリットは、クライアント満足の向上です。クライアントは誰に相談すればよいか分からないことが多いですが、税理士法人のスタッフに相談すれば適切な提案が行われます。これにより、クライアントの問題が解決し、収益性が向上することで、顧問料の増加や新規顧客の紹介が期待できます。現状、クライアントの報酬が頭打ちになり、さらに彼らの高齢化や廃業が進むなか、税理士サービスだけでなく、周辺サービスを提供していくことは、クライアントの業績向上に直結し、税理士法人自身にも大きなメリットをもたらします。
このビジネスモデルに基づき、かがやきホールディングスグループは3つの柱で成長戦略を考えています。
1つ目は既存サービスの収益性を向上させること。2つ目はM&A戦略を通じて新しいメニューを加えたり、既存メニューを強化すること。3つ目は税理士法人との連携を強化
するアソシエーション戦略によって収益性を向上させること。この3つの戦略を通じて、株式会社と税理士法人が共に成長を実現していきます。
今日は時間の関係で、アソシエーション戦略についてだけ、少し詳しくご説明させていただきます。
この戦略は税理士法人業界を活性化するためのもので、かがやきホールディングスグループが税理士法人との連携を強化し、クライアントの増加や収益性の向上を実現すること
で、後継者のいない税理士法人が合流する可能性を生み出すという考え方です。
実際に、これまで6〜7回ほど後継者がいない税理士法人を仲間に迎え入れ、今一緒にやっています。私たちのビジネスモデルに賛同し、成長は目指したいが後継者がいないという士業法人を私たちが受け皿としてサポートさせていただいています。
税理士法人の規模が大きくなれば、クライアント数が増え、新たなサービス提供も拡大します。これにより、規模拡大による収益強化とサービス提供拡大が実現する――これがアソシエーション戦略の狙いです。
さらに、成長戦略と密接に関連する財務戦略も重要です。私たちは会計士としてどの指標を重視すべきか、どのKPIを設定すべきかを考え続けてきましたが、ROAやROEといった指標はしっくりきません。私たちは製造業ではないため、どの数字をベースに経営を進めるべきか模索していました。そこで、最近注目され始めたDS(Distribution Statement)という考え方に着目しました。これは企業が生み出した付加価値をどのように分配するかを示す計算書で、ステークホルダーに適正に分配することで企業の持続的発展を目指す経営手法です。
午前中の話で、税理士法人が1年間で稼いだ利益を全て従業員に分配し、ひとりあたりの報酬がとても高額になるところがあるという話がありました。私はその考え方には賛同しません。かがやきホールディングスグループを持続可能なものにし、次世代に経営を承継するためには、そのときの従業員だけで利益を分配するのは適切ではないからです。
私たちの財務戦略について説明します。多くの企業は損益計算書を基に経営指標を考え、利益を最大化することを目指しています。たとえばROAやROEといった指標は、資産や自己資本に対する利益を重視します。しかし、これらを高めるために、本来必要な費用を抑えて利益を大きくするインセンティブが生まれるのはよくありません。
東京証券取引所ではガバナンス強化のためPBR(株価純資産倍率)やROEの改善を求めていますが、これらは株主の利益を優先するものです。特に、東京証券取引所の株主の約40%が海外の投資家であるという現状では、利益が海外投資家に分配される一方で、従業員への報酬や戦略的設備投資が抑えられている企業も多くあります。さらに、赤字なのに配当を行う企業があることにも疑問を感じます。
重要なのは「利益」ではなく、私たちが生み出した「付加価値」をどのように分配するかです。付加価値は、外部がつくった生産価値を差し引いた残りの部分であり、これを株主、国や地方自治体、従業員、役員などのステークホルダーに分配する必要があります。経営者は、特定のステークホルダーだけが利益を得るのではなく、すべてのステークホルダーに公正に分配するよう努めるべきです。
かがやきホールディングスでは、従業員と役員への人的資本の投資を重視し、付加価値の総額やひとりあたりの付加価値を重要な指標としています。これにより、従業員ひとりあたりの人件費や役員報酬を強化し、全体の人的資本を高めることを目指しています。
私たちは従業員に株式報酬制度を導入し、株式を持つことで従業員のモチベーションや当事者意識を高めることも目指しています。
こうして付加価値の創出を促進し、創出した付加価値を皆で分配するサイクルを確立したいのです。このサイクルによって企業価値が向上すると信じていますし、重要なステークホルダーである株主に対しても、分配の方針をしっかりと説明し、理解を得ることが大切だと考えています。
私たちのグループの中核企業は、税理士法人ではなく株式会社であるという点がポイントです。税理士法人は資格がなければ社員になれず、出資もできないため、資格を持たない優秀な人材に承継するのが難しいのです。
ちなみに私は現在、税理士法人に籍を持っておらず、もっぱら株式会社の運営を担当しています。税理士法人は、私たちのビジネスモデルに賛同している税理士や社労士が支えています。このような構造を維持するには勇気が必要で、リスクも伴います。しかし、経営理念と行動規範をしっかりと共有することで、リスクを最小限に抑えられると考えています。
経営理念と人的資本の強化、そして財務戦略を共有することで、私たちのビジネスモデルが成功に近づくことを願っています。
JAPAN M&A Award2025
M&Aの分野で優れた取り組みをした会計事務所を称えるJAPANM&A Award2025の受賞事務所が発表された。
受賞した事務所は左記のとおり。
新人賞
• 税理士法人JTS会計(石川県)
• あさひコンサルティング株式会社
(静岡県)
譲渡アドバイザリー賞
• 税理士法人りんく(神奈川県)
• 税理士法人堀江会計事務所(福島
県)
譲受アドバイザリー賞
• 税理士法人KMCパートナーズ
(東京都)
最多成約賞
• ベンチャーサポート税理士法人
(東京都)
Big Deal賞
• しんせい綜合税理士法人(ナイ
ス株式会社×セレックスホール
ディングス株式会社、愛知県)
Deal of the Year
• 税理士法人エース(株式会社三ツ
中×株式会社K GRIT、静岡
県)
優秀事務所(MVP)
• ベンチャーサポート税理士法人
(東京都)
会計事務所とは一生涯のお付き合いを
日本M&AセンターHD
名誉会長 分林保弘
私は20代の頃から会計業界に関わり、50年以上のお付き合いをさせていただいております。素晴らしい先生方との出会いのおかげで、現在の日本M&Aセンターがあります。
原点となったのは、TKCの飯塚毅先生との出会いです。先生の講演を聴いたときには感銘を受けました。「自利とは利他を言う」という言葉があり、日本M&Aセンターにとっても非常に重要な考え方です。お客様がプラスになり、われわれも利益を得るというのは理想的な形です。
杉山賢一先生が「経営計画シミュレーション」をつくられたことも大きな出来事でした。これにより、「過去会計から未来会計へ」という新しい視点が生まれました。
浅沼経営センターの浅沼邦夫先生がこのシミュレーションをうまく活用し、見学会を開催しました。当時、1000社以上の顧問先を抱えており、会計事務所の規模も大きくなりました。
また、日本経営グループの菱村和彦先生との思い出は、大阪の32階のビルで「これからは5つの業種に専門特化する」というお話を伺ったことです。先生の事務所は現在、2000人以上の社員を抱え、医療や不動産、建設業などに特化しています。
経営計画に関しては、岩永先生が長崎で経営計画策定支援を展開され、われわれも先生のご指導のもとで中期計画を作成しました。その結果、3年で経常利益が7億円に達し、非常に成功しました。この成功を日本経済新聞の紙面を通じて発表し、日本最大級のM&Aグループとして認知されました。それ以降、黒字決算を続けています。
その後、日本事業承継コンサルタント協会を設立し、日本M&Aセンターが上場した際には、先生方に株を持っていただきました。私たちは、会計事務所と一生涯お付き合いを続けたいと思っています。
私は80歳を超え、最近ではビジネスだけでなく、社会貢献にも力を入れています。
ドイツで能楽の講演を行い、公益財団法人日本オペラ振興会の理事長も務めています。文化的な活動を通じて、地域社会との交流を深めたいと考えています。
「100万人のクラシックライブ」というプロジェクトも進めており、音楽を通じて地域社会と交流することが重要だと感じています。会計事務所でも音楽会を開催し、地域との交流を深めることができると考えています。
最後に、M&Aを通じて先生方と交流できることに感謝しています。
今後の会計事務所の方向性として、稲垣先生も講演でお話しされていましたが、税務・会計ありきではなく、まず経営があり、つぎに税務・会計があるという考え方が重要なのではないかと思います。
約40年前にアメリカの監査法人を訪問した際、ビッグ8のひとつだったアーサー・アンダーセンを思い出します。
同法人はエンロン事件で監査法人として倒産しましたが、当時のコンサルティング部門は独立してアクセンチュアとなり、現在では約40万人もの社員を抱える世界的な企業へと発展しています。
これはコンサルティング分野が大きく成長していることの象徴ともいえます。
そのような流れを踏まえまして、今後とも先生方が税務・会計にとどまらず、コンサルティング領域においてもさらなる発展を遂げられるよう、ご支援を続けてまいりたいと考えております。引き続き、よろしくお願いいたします。