写真提供:一般社団法人会計事務所連携協議会
6月11日に、ホテルニューオータニ(東京都千代田区)で、一般社団法人会計事務所連携協議会(東京都中央区。以下、「会計連」)が、「会計連キックオフセミナー」を開催した。参加者は約70名。
会計連は全国の有力会計事務所17社が発起人となって設立された一般社団法人で、会計業界が社会のインフラとしてより大きな価値を提供することを目指している。代表者は本郷孔洋氏(辻・本郷グループ)、会員事務所数は63社(2026年6月時点)。
キックオフセミナーは同協議会事務局の古尾谷裕昭氏(VSG相続税理士法人)の司会で進められ、会計業界を先導する錚々たる顔ぶれが壇上に立った。
開会のあいさつ
柴田昇氏(ミカタ税理士法人)
本日は、会計業界のトップを担う先生方にお集まりいただきました。今日という日は、10年後に必ず「あの日、あのときに歴史が動いた」と振り返る日になると確信しています。折しも6月11日は、新一万円札の渋沢栄一が、有名な第一国立銀行(現在のみずほ銀行)を設立した日にあたります。その日に全国からこれだけの顔ぶれを集めてしまうのが、本郷先生という方です。
会計連は、ベンチャーサポート税理士法人の中村真一郎さんの発案で、2年ほど前に7社が毎月集まるようになったことが始まりです。その後、2024年12 月、本郷先生を理事長に、17社で発足しました。
これは一部の人だけが動かす会で はありません。スタッフの方も含めて「こんな悩みがある」「こういうことを勉強したい」とどんどん発信していただき、皆さんで作り上げていきたい。参加する事務所が発展し、その先の全国の中小企業の成長プラットフォームに、会計連がなっていくと確信しています。
基調講演
本郷孔洋氏(辻・本郷グループ)
今日は何を話せばいいのか迷いましたが、去年80歳を記念して書いた本「80歳からの煩悩と迷走」(東峰書房、2025年)をテーマにお話しします。
私は来年でこの業界に入って50年になります。会計業界のことを、この間見続けてきました。
組織化の重要性
会計事務所の先生を講師とするセミナーをずっとやってきて感じるのは、講師が受講者に抜かれていくのが歴史だ、ということです。
そうなる理由のひとつが、事務所を組織化していないことです。個人の事務所は、お客さんも自分と同じように歳を取り、60歳くらいになる と周りが引退して紹介をしてくれなくなります。そこで事務所の成長が止まってしまうのです。
私が嫌だったのは、「あの人は今」という番組のように、自分が歳を取ることで過去の人になってしまうことでした。それを避けるためには、個人ではなく組織を作らなければと思ったのです。優秀な同業者は結構いましたが、彼らの多くは個人のままでした。
もうひとつは、事務所がある程度の規模になると、みんな遊んでしまうのです。
だから、自分は休まずに働き続けるようにしようと思いました。働き続けていれば、若い人たちが補佐してくれます。組織を作ってよかったなと思います。
自分以外はみな師匠
私が大事にしている考えは、「自分以外はみな師匠」ということです。
特に、このような変わり目の時代になると、過去の経験はアドバンテージになりません。自分が積んできた経験では、もう若い人にかなわないのです。
だから、若い人の意見を聞かないといけません。Microsoftがなぜ Googleを買えなかったかというと、 当時の幹部にはネット検索の価値が分からなかったからだ、という説があります。
若い人が普通に使っているものがトレンドだったりします。若い人の話をよく聞いたほうがいい、というのが私の見解です。
努力には方向性がある
私は努力したけれど、無駄な努力が多かった。32歳で独立して10年、一生懸命やったのに大した成果が出なかった。今思うとやり方が悪かったのです。
「努力には方向性がある」という言葉があります。努力するときには長期スパンで見なければならない。そのためには、方向性や戦略が大事なのです。
私の会計事務所人生で一番伸びたのが、 60歳からなのです。よく50代で「もう完成だ」と言う人がいますが、私は60歳からのほうが一番伸びました。皆さんの時代なら、 70歳くらいから事務所を大きくできるんじゃないですか。
トレンドは税制改正に表れる
税のトレンドは、経済のトレンドと随分密接につながっています。今が何の時代かは、税制改正で分かり ますよ。
NISAの税制優遇制度が出たときには、資産運用の時代だなと分かった。企業組織再編税制が整ったときには、企業再編の案件が集中すると分かりました。
私の経験では、事務所のビジネスもトレンドに合わせて3年でマイナーチェンジ、10年でフルモデルチェンジしなければならない。読み間違えると、一生懸命やっているのに効果が出ないのです。
先を見てシステムと組織を作る
私の著書には反省点として書いているのですが、10人のときに100人の規模を考え、100人のときには1000人の規模を考えてシステムを作らないとダメなんです。私は10人のときに10人のシステム、100人のときに100人のシステムを考えていたから、後追いになっ てしまった。
一番ダメだったのは、やはりシステムや組織です。今はIT化できていますし、今度はAI化になるでしょうから、ぜひ、今の状態で10倍くらいの組織作りを考えてください。
足し算経営の大切さ
私が57歳のときに、辻会計事務所と合併して税理士法人ができました。 統合に3年かかり、そこからが本当の出発になったのです。
当初は2つの事務所をバラバラに動かしていたのですが、ある人に「家族同士でも別居していてうまくいきますか?全部ひとつの事務所に集めたほうがいい」と言われまし た。
なるほどと思って、強引に全部新宿に集めてしまった。そうしたら面白いもので、それまで張り合っていたのが仲良くなる。しかもひとつの部屋に入ると、1+1が2にとどまらず、3くらいになるんですね。
これは私の持論ですが、足し算をして、合併して大きくなっていくのはいい。けれど、喧嘩別れすると、 2 -1が1にならないんです。0・ 5くらいになってしまう。
だから、何か言葉を残せと言われたら、「内部で喧嘩していてもいいから分裂はするな」と書くつもりで す。
やはりビジネスは足し算で、足していかないとダメなんです。
内部を固めるな
合併から3年経つと、調子がよくなりました。けれど、人間は3年でマンネリになるんですね。だから変えないといけない。
そのとき、ちょうど地方のM&Aの話を聞いていたので、東京じゃなく地方でやろうと思いました。2年で30~40社展開して、3年でうまくいった。3年チェンジ、3年チェンジでやってきました。
ただ、理事長の最後の3年は失敗でした。「第二創業だ」と内部のまとめをしようとしたんですね。でも、生まれも育ちも違う若い人は、内部では固まらない。ある人に相談したら、「中を固めないで、外に打って出てみたら」と言われました。
よく、「内部を固めろ」というアドバイスがありますが、あれはやめたほうがいい、というのが私の結論です。沿線開発 70歳になって、ちょうど顧問先が1万社くらいになったので、理事長を譲りました。私は阪急電鉄創業者の小林一三さんの理屈が好きで、線路を引いて沿線開発をしていく、いわゆるプラットフォーム戦略ですが、それが好きだった。
だから、とりあえず線路を引くようにお客様の数を増やしておいた。そして譲ってからの10年は、関連会社を作っていきました。
会計事務所から派生する事業は山ほどあります。最初はもたもたしましたが、今は18社くらいになりました。そのうちの1社が去年の12月に上場できました。1回優勝、ということですね。80 歳では何をやろうかというのが、今のテーマです。
AI時代の事務所経営
これからはやはりAIでしょうね。 やってみて思ったのは、組織にAIオタクを作ったらまずいということです。AIオタクがいると属人化して、一番下の普通の人がAIを使える環境にならないからです。
だから、まず会社全体をGoogle環境で統一し、「浮気するな」と言いました。社員に自由にやらせると、 スマホの無料アプリと同じでツール同士の消耗戦を始めてしまう。そこだけは統制しました。ポイントは、 経営者目線でAIを考えないとダメだということです。
長生きが最大の運
80歳になって、私は以前よりも積極的になりました。過去を語って未来を語らない姿勢が、私は好きでないのです。
世の中がどう変わるか、その先を見たい。死んでしまったら見られませんからね。
昔、ある学校法人の理事長さんに 「本郷さん、人生は運だよ。長生きすることが最大の運だ」と言われ、なるほどと思いました。
そのためには健康維持です。同僚は40代のころ、深夜までよく飲んでいましたが、60代になって体力がガクッと落ちました。遊んでもいいけれど、2次会でやめておけ、というのが私の体験からの話です。
やりたいことはやったほうがいい
私のモットーは、急がない、焦らない、でも休まない。そして、格好をつけないことです。
それから、やりたいことはすぐやったほうがいいと思います。後で悔いが残りますから。
バブルのころ、仲間で香港に行って、ひとりが高価なアワビを食べたいと言ったのを多数決でやめさせました。ところが、その人はその後病気になって、「あのときアワビを食いたかったな」と言って亡くなりました。今そこに何かあったら、後に取っておかないでやったほうがいいのです。
税理士法人の有限責任化
最後に、ぜひこの会で取り組んでほしいのが、税理士法人の有限責任化です。今やらないと後で大変です。これだけのメンバーが集まったのですから、ぜひ取り組んでほしいです。
とりとめのない話でしたが、ご清聴ありがとうございました。
一般社団法人会計事務所連携協議会(https://j-tax.or.jp/)

副理事長あいさつ
中村真一郎氏(ベンチャーサポート税理士法人)
私からは、会計連がどういう経緯でできたのかをご説明します。
きっかけは、東洋経済の表紙にあった「高揚するコンサル したたかな弁護士 黄昏の税理士」という言葉でした。皆さん、なんだか馬鹿にされているように感じませんか。2022年、コロナがある程度落ち着いてきたころのことです。
持続化給付金などを日本中の中小企業に届けたのは、私たち士業です。社会のインフラのような存在だと自負していたのに、世間のイメージはそうではない。それを知って、強いショックと怒りを覚えました。
また、私たちの業界の周りにはさまざまな業者がいて、業界の利益を奪われている――そんな感覚を持っていました。
とはいえ、1社がどれだけ頑張っても何も変わりません。業界の皆さんと協力しなければできないことだと考え、何社かの先生に相談しながら準備を進め、2024年12月にこの会が立ち上がりました。
会計連でできることは、大きくは2つです。ひとつはブランディングです。「黄昏の税理士」と見られているイメージを変えていく。
もうひとつは採用です。優秀な学生に「コンサルティング会社と税理士法人のどちらに行きたいか」と聞くと、ほとんどがコンサルと答えます。モテるから、給料がいいから、というイメージです。
税理士法人はコンサルティング会社よりも明らかによいことをやっているのに、社会の評価は逆で、給与水準も低い。そこを変えていく。トップクラスの事務所が集まっているのですから、それは私たちの責任だと思っています。
勉強会も数多く用意しています。大手同士で言えないノウハウもあるはずですが、私たちは基本的に全部公開するつもりです。なぜなら、皆さんの会社が儲かって収益を上げ、業界の給与水準が上がらなければ、ブランディングも採用も意味がないからです。
副理事長あいさつ
朝倉歩氏(sankyodo税理士法人)
私は独立して10年ほどになります。2020年、創業4年目に、本郷会長が雑誌で私を見つけてくださって、セミナーに登壇する機会をいただきました。そこから本郷会長と一緒に仕事をさせていただくようになり、これが会計業界に対する活動の始まりでした。振り返ると、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
今後、会計事務所の仕事の多くがAIに置き換わり、付加価値の高い仕事へと移っていくなかで、若手が切磋琢磨できて、若い人たちがそれに魅力を感じ、この業界を選んでくれるようになっていけばいいと思います。
私自身、多くの先輩に育てていただきました。そのような環境を、今度は若手が作り上げていく番だと思っています。
会計連の活動方針(事務局)
古尾谷裕昭氏
会計連の目的は、会計業界の社会的プレゼンスを高め、若い世代に選ばれる業界にしていくことです。
まず取り組んでいるのがメディアへの働きかけ。ただ、この1年やってみて、一つひとつの話題を単発で取り上げてもらっても、影響は小さいと分かりました。
そこで打ち出したのが、「会計系コンサル」の認知形成です。
会計事務所の仕事は税務会計にとどまらず、事業承継やIPO支援、保険、不動産など幅広いコンサルティング業務があります。資格を持たない20~30代でも、1000万~2000万円を超える報酬で活躍するプレイヤーがおり、その実態を会計系メディアから一般メディアへと広げていきます。
また、学生に直接アピールできるのが産学連携です。一会計事務所では大学との接点を作るのは難しいですが、連合団体としてなら歓迎されます。すでに兵庫県立大学と連携し、講演会や会社説明会を実施、インターンも予定しています。この1年で連携先は3大学に増えました。
今後は、M&A、補助金を活用した人材採用、経営組織強化など、経営寄りの勉強会を多めに開いていきます。このほか、能登半島地震の支援実績をふまえた企業版ふるさと納税の活用、理事17社から会員63事務所へと広げる統計データの収集、「会計連パートナーファーム」認証マークの付与なども進めています。
研究会委員長のあいさつ
活動方針の説明に続き、6つの研究会の委員長があいさつに立った。
テクノロジー研究会
朝倉歩氏
税理士がテクノロジーに強くならなければ、他業界にいろいろと持っていかれてしまいます。とても大事な委員会だと思っています。
先ほどの本郷会長のお話にもあったように、若い人に意見を聞くことが大事です。若くして大きな規模に成長され、AIにも詳しい先生方の力も借りながら、業界全体がAIに強くなるための取り組みができればと思っています。
会計事務所M&A研究委員会
柴田昇氏
メンバーは、税理士法人TOTALの高橋さん(高橋寿克氏)、日本クレアスの中村さん(中村亨氏)、私の3人です。
普段、M&Aのセミナーは時間の都合でお断りしているのですが、今回は会計連ということで、買収・売却のノウハウを余すところなくお伝えします。
人材採用研究委員会
太田隆介氏(OAGコンサルティンググループ)
採用は、皆さんにとって大きなテーマです。何名採用したか、採用の最大の悩み、休日はどのくらい取れているか、労使紛争やメンタル疾患まで、クローズドな会員同士でリアルな数字や経験を集めています。皆さん率直に答えてくださり、第1回の勉強会はとても学びの多いものでした。
税理士法改正研究委員会
安藤教嗣氏(税理士法人名南経営)
先ほどの本郷先生のお話の最後で、私はドキッとしました。
魅力ある業界にしていこうとするとき、若い方にとって税理士法人の無限責任は非常に重いといえます。ひとりの間違いによって、残りの社員全員が破産しかねない。これは、若い方がこの業界に入ろうとすると
きの大きな障害になります。
そこで、監査法人や弁護士法人で導入されている指定社員制度を、この業界にも入れていきたい。担当していない案件の責任まで全社員が無限に負わずに済むよう、社員の責任を限定する仕組みです。
政治活動になりますので、財務省などにも働きかけながら進めます。
広報活動研究委員会
松本崇宏氏(税理士法人松本)
税理士法人松本は、東京と大阪を拠点に、税務調査対応を強みとする事務所です。最近はYouTubeをやっておりまして、これは本郷会長から「そろそろ動画でもやってみなよ」と言われて始めたものです。
私は職業会計人という仕事が大好きで、「生まれ変わってもまたこの仕事をしたい」とよく話します。中小零細企業のお客様のすぐ近くでサポートでき、お客様がよくなることで「ありがとう」と報酬をいただける。こんな素晴らしい仕事はありま
せん。ただ、その価値が正しく伝わっていないと感じる場面がある。広報活動を通じて、社会に、そして業界内にも正しく伝えていきたいと思います。
グローバル委員会
徐瑛義氏(セブンセンス税理士法人・委員長代理)
私たちのグローバル委員会は、セブンセンス税理士法人、RSM汐留パートナーズ税理士法人、税理士法人山田&パートナーズなど、グローバルファームに加盟している事務所で構成しています。
国際税務や会計というよりは、グローバルな支店経営や、海外の先進事務所の取り組みを中心に情報を共有していきたいと考えています。
今、米国ではトップ30事務所のうち半分は、資本をPEファンドが持っています。PEファンドが買うということは、それだけ会計事務所に魅力があるということです。
私たちも、先進的なファンドが会計事務所の価値を認めているという事実を認識し、この業界の魅力を国内外にアピールできたらと思います。

柴田 昇氏
ミカタ税理士法人

古尾谷裕昭氏
VSG相続税理士法人

本郷孔洋氏
辻・本郷グループ

中村真一郎氏
ベンチャーサポート税理士法人

朝倉 歩氏
sankyodo税理士法人

太田隆介氏
OAGコンサルティンググループ

松本崇宏氏
税理士法人松本

安藤教嗣氏
税理士法人名南経営






