互いの文化を尊重したうえで融合
事業承継やM&Aが成立すると、多くの所長先生がまず意識するのは、契約や組織体制、顧問先への説明といった「目に見える部分」です。しかし実際の現場では、それ以上に重要なものがあります。それが事務所文化です。
会計事務所には、それぞれ長い時間をかけて形成された独自の文化があります。顧問先との接し方、仕事の進め方、職員同士の関係性、所長の価値観。こうしたものは制度として定められているわけではなく、日々の業務のなかで自然と形づくられてきたものです。
そのため、事業承継や経営統合が行われると、表面的には同じ会計事務所としてスタートしていても、内側では小さな違和感が生まれることがあります。
例えば、譲受側の事務所ではスピードを重視する文化がある一方、譲渡側の事務所では顧問先との関係づくりや丁寧な説明を大切にしてきた場合。あるいは、業務の進め方や報告の方法など、これまで当たり前に行ってきたことが、別の事務所では全く異なるということも珍しくありません。
こうした違いが生じたとき、注意しなければならないのは、「どちらが正しいのか」という発想になってしまうことです。
特に譲受側の立場からすると、「新しい体制になったのだから、こちらのやり方に合わせてもらうのが自然だ」と考えたくなることもあるでしょう。
しかし、長年その事務所を支えてきた職員にとっては、それまでのやり方こそが仕事の基準です。急激な変化は、職員の戸惑いや不安につながり、それが顧問先対応にも微妙な影響を及ぼしてしまうことがあります。
以前、ある事務所の承継に関わった際、こんな場面がありました。譲受側の所長は「事務所をよりよくしたい」という強い思いから、承継後すぐに業務の進め方やルールの見直しを進めました。
効率化や改善という意味では、決して間違った判断ではありません。しかし、職員のなかには戸惑いを感じる人もいました。それまで長く続けてきた方法が急に変わることで、「これまでのやり方は間違っていたのだろうか」と不安を感じてしまったのです。もちろん、譲受側の思いは決して間違っていたわけではありません。事務所をよりよくしたいという気持ちは、経営者として当然のものです。
ただ、その変化が急激であればあるほど、職員にとっては「新しい事務所になった」というよりも、「これまでの事務所が否定された」と感じてしまうことがあります。この感覚のズレが、承継後の組織に小さな距離を生むこともあるのです。
だからこそ大切なのは、文化を一方的に変えることではなく、まず理解することです。
• なぜその方法が続いてきたのか
• どのような顧問先との関係のなかで生まれたのか
• どのような思いで職員がその仕事を続けてきたのか
こうした背景を理解することで、単なる違いに見えていたものが、実はその事務所の強みであることに気づく場合も少なくありません。承継後の組織づくりにおいては、譲受側の文化を押し付けるのではなく、互いの文化を尊重しながら少しずつ融合させていく姿勢が求められます。
承継の成否は契約成立後から時間をかけて形づくられる
その意味でも、ここでもまたソフトランディングの考え方が重要になります。急激に変えるのではなく、時間をかけて理解し合い、よい部分を残しながら新しい形をつくっていく。その過程こそが、事務所の新しい文化を育てていくことにつながります。
会計事務所の承継は、単なる経営の引き継ぎではありません。そこには、長年築いてきた価値観や仕事の姿勢、顧問先との信頼関係といった「目に見えない資産」が存在しています。
制度や契約だけで事務所を引き継ぐことはできても、文化までは一度に引き継ぐことはできません。だからこそ承継後の期間は、互いの文化を理解しながら、新しい事務所の姿を少しずつ形づくっていく大切な時間になります。
承継の成否は、契約が成立した瞬間ではなく、その後の時間のなかで決まっていくといっても過言ではありません。そしてその中心にあるのが、人がつくり上げてきた事務所文化の融合なのです。
会計事務所事業承継支援センター
センター長 加藤剛
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会計事務所のM&Aにはある程度の基本的な進め方はあるものの、所長先生のご事情や事務所の背景により、その対応はひとつとして同じではありません。当センターでは、所長急逝による緊急対応、高齢所長の引退支援、税理士法人同士の経営統合など、さまざまなケースに柔軟に対応してまいりました。業界構造への深い理解と、士業に特化した支援体制で、安心と納得のマッチングをご提供いたします。
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