税理士業界では、所長の高齢化や後継者不在を背景に、会計事務所の事業承継・M&Aへの関心が高まっている。一方で、譲渡を検討する先生にとっては、譲渡価額だけでなく、職員の雇用、顧問先との関係、事務所の歴史をどのように引き継いでもらえるかが大きな関心事となる。名古屋市を拠点とするフレスコ税理士法人では、M&Aを単なる規模拡大の手段としてではなく、職員が安心して働き続けられる組織づくりと、顧問先を守るための承継実務として捉えている。安藤正範代表に、譲受を検討する背景、統合時の考え方、顧問先・職員への向き合い方を伺った。
組織の持続性を高めるためのM&A
フレスコ税理士法人は、名古屋市を拠点に展開する税理士法人で、現在はスタッフ約60名の体制で顧問先支援を行っている。近年、売上規模・顧問先数ともに拡大しており、顧問先数は1000件前後に達するなど、着実に組織規模を拡大してきた。同法人が掲げるビジョンは「その夢をもっと自由に」。顧問先の成長や挑戦を支える事務所であると同時に、職員が安心して働き続けられる組織であることを重視している。
安藤代表が会計事務所M&Aを考える背景には、単なる顧問先数の増加や拠点拡大だけではなく、組織としての持続性を高めたいという問題意識がある。小規模な事務所のままでは、代表者の不測の事態がそのまま組織全体の不安につながりやすい。若手職員が将来を見据えてキャリアを積み、退職者が出ても残るメンバーに過度な負担が集中しない体制をつくるには、一定の規模が必要になる。
そのひとつの目安として、同法人では将来的に100名体制を視野に入れる。これは「大きくなること」自体を目的とした数字ではない。採用力、教育体制、業務の平準化、管理体制、そしてリスク分散を含め、次世代の職員から見ても安心して働ける組織をつくるためのボトムラインとして捉えている。
支援できる範囲に集中し、無理な拡大はしない
承継対象として想定するエリアは、愛知県を中心に、岐阜県・三重県のうち愛知県寄りの地域である。地理的に近く、代表者や幹部が直接関与でき、職員や顧問先に必要な支援を届けられる範囲を重視するためだ。大阪や東京など遠隔地についても関心がないわけではないが、日常的なグリップや相互支援が難しくなるため、現時点では近接地域を中心に考える。
この考え方は、同法人のM&A観をよく表している。規模を追うことよりも、承継後に職員や顧問先を守れるか、現場を支援できるかを優先する。譲受後の統合は、契約を締結して終わりではない。むしろ、職員の不安を受け止め、顧問先との関係を維持し、業務フローを整えていく実務こそが本番となる。
譲渡元の希望に寄り添いながら、経営責任は明確にする
安藤代表は、譲渡元の先生の希望にはできる限り柔軟に向き合う方針を示す。譲渡後も一定期間勤務を続けたい先生については、週数日の勤務、顧問先引き継ぎ、税務調査対応など、役割を整理したうえで関与を継続する形も考えられる。実際に、体調面の事情によりフルタイム勤務が難しい譲渡元の先生が、一定日数の勤務を継続しながら顧問先対応や税務調査対応を担う形で承継を進めた例もある。
一方で、経営への関与や運営方針については線引きも必要になる。譲渡元へのリスペクトを保ちながらも、譲受後の意思決定や事務所運営については、譲受側が責任を持つ。このバランスが曖昧になると、職員や顧問先に混乱が生じる。譲渡元の歴史を尊重しつつ、承継後の組織としての責任体制を明確にすることが、円滑な統合の前提となる。
フレスコ税理士法人
(https://www.taxco-fresco.com/)

統合前に条件を整えるという実務
面談のなかで特に実務的だったのは、統合前の準備期間を活用して、業務量と報酬水準に乖離がある顧問先について契約条件を見直すという考え方である。譲受後に突然、報酬水準や業務内容を変更しようとすれば、顧問先の離脱リスクが高まる。そこで、統合日を見据えて事前に説明・交渉を行い、採算性とサービス品質を両立できる状態に整える。
この取り組みは、譲受側だけの都合ではない。譲渡元の先生にとっても、顧問先を無理なく引き継げる状態に整えておくことは、承継後のトラブルを防ぐことにつながる。職員にとっても、過度な低採算業務や不明確な契約条件を抱えたまま統合するより、あらかじめ業務内容と報酬水準を整理しておくほうが、精神的な負担は小さい。
また、会計処理や財務内容に懸念がある顧問先についても、承継を契機に関与方針を見直す。必要に応じて経営改善の方向性を確認し、関与継続が難しい場合には、円満な形で関係を整理する。これは譲受側のリスク管理であると同時に、担当職員を守り、事務所運営を健全化するための取り組みでもある。
システム対応は「変える」よりも「段階的に整える」
統合時にもうひとつ重要になるのが、会計ソフトや業務フローの扱いである。フレスコ税理士法人では、主要な会計・税務システム各社への対応経験を持つ。申告書作成や管理面では標準化を重視しつつも、譲渡元の環境をすぐに変えることを前提とはしない。
譲渡元の職員にとって、慣れたシステムや業務フローが突然変わることは大きなストレスとなる。承継直後に大きな変更を重ねれば、職員の不安や顧問先対応の混乱につながりかねない。そのため、まずは既存の環境を尊重し、必要な部分から段階的に最適化していく。ここにも、同法人が重視する「対応力」が表れている。
案件は縁。出会った案件にどう向き合うか
安藤代表のM&A観で印象的なのは、案件を条件だけで機械的に選別するものとは捉えていない点である。もちろん、あらゆる案件を無条件に受け入れるわけではない。しかし、最初から規模や条件だけで対象を狭めるのではなく、出会った案件に対して、譲渡元の思い、顧問先の状況、職員体制、報酬水準、業務フローをひとつずつ確認し、現実的な着地点を探る。
「案件は縁」であり、その縁をどう活かすかは、譲受側の姿勢と実務力にかかっている。譲渡側の先生は、最終的に誰が責任を持って向き合うのかを見ている。だからこそ、代表者自身が前に立ち、初期段階からコミュニケーションを取り、必要な条件調整を行うことが重要になる。
会計事務所M&Aは、単なる事業の売買ではない。譲渡元の先生が築いてきた歴史、職員の生活、顧問先との信頼関係を受け継ぐ営みである。その意味で、フレスコ税理士法人の取り組みは、地域の会計事務所承継における譲受側の役割を考えるうえで、実務的な示唆に富んでいる。

安藤正範(あんどう・まさのり)
フレスコ税理士法人代表社員 税理士。1968年、愛知県岡崎市生まれ。2002年税理士登録・開業。2005年、税理士法人フレスコ綜合会計事務所(現 フレスコ税理士法人)を設立。代表に就任。会計・税務及び事業計画作成、事業再生を支援。生命保険管理ソフトe-Return(現MyCompass)の開発を支援。2019年一社)Waoje名古屋事務局長就任。
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設立:2004年10月