会計事務所の事業承継・M&Aでは、譲渡価額や契約条件に目が向きがちである。しかし、 承継の成否を左右するのは、条件面だけではない。承継後、職員が安心して働き続けられるか。顧問先が変わらず相談できるか。事務所に根付いた文化や仕事の進め方を、無理なく次の体制へつなげられるか。こうした視点こそ、会計事務所M&Aでは欠かせない。

今回話を伺ったのは、京都市南区に本拠を構える京都税理士法人代表社員税理士の江後慎太郎先生である。同法人は、会計・税務に加え、労務・人事、行政手続きなどを含めたトータルサポートを展開し、地域企業の成長を支えてきた。経営理念には「顧客の繁栄なくして我がグループの存在なし」「社員の幸福を実現し、地域社会に貢献する」を掲げる。

承継の受け手に求められるものは、資金力や規模だけではない。譲受側には、譲渡側の思いを受け止め、職員と顧問先を守りながら、事務所の価値を次につなげる「引き継ぐ力」が問われる。江後先生の言葉からは、会計事務所M&Aにおける譲受側の姿勢が見えてくる。

譲受側に必要なのは、 「買う力」より「引き継ぐ力」

京都税理士法人では、M&Aを単なる規模拡大の手段とは捉えていない。もちろん、組織として成長を目指すうえで、顧問先数や人員体制の拡充は重要である。しかし、江後先生がそれ以上に重視するのは「人」である。

会計事務所の承継では、譲渡側の所長先生、 職員、顧問先の三者が、それぞれ不安を抱える。所長先生にとっては、自ら築いてきた事務所を誰に託すのかという問題であり、職員にとっては、今後も安心して働き続けられるのかという生活に関わる問題である。顧問先にとっても、これまで信頼してきた先生や担当者との関係がどう変わるのかは大きな関心事となる。

そのため、江後先生は、条件面だけで案件を判断するのではなく、譲渡側の先生の思い、職員の雰囲気、顧問先との関係性、事務所に根付 いた文化を丁寧に確認することが大切だと考えている。会計事務所M&Aは、単に顧問先を引き継ぐものではない。そこで働く人、関わる人、積み重ねてきた歴史をどう受け止めるかが問われる取り組みである。

目の届く範囲で、 責任を持って承継する

京都税理士法人が譲受を検討する地域は、京都・大阪・滋賀を中心としている。全国どこでも対応するという考え方ではなく、江後先生自身が直接コミュニケーションを取り、責任を持って統合を進められる範囲を重視している。

この考え方は、譲渡側にとっても安心材料となる。承継後に譲受側の目が届かず、職員や顧問先が取り残されるような形では、円滑な承継にはつながらない。地域性や人のつながりを理解し、無理なく支援できる範囲で引き継ぐことが、結果として譲渡側・譲受側双方にとってよい承継につながる。

同法人では、これまでも拠点展開や組織体制の見直しを経験してきた。単に拠点を増やすのではなく、人材採用、管理体制、職員同士の連携、顧問先対応の品質を踏まえながら、現実的に運営できるかどうかを見極める。その姿勢は、堅実な地域密着型のM&A方針といえる。

小規模事務所ほど、 丁寧な対話が欠かせない

江後先生が承継案件として特に相性がよいと考えているのは、少人数体制の会計事務所である。例えば、所長先生と職員数名で運営されているような事務所であれば、所長先生との対話を重ね、職員の不安を受け止めながら、比較的きめ細かく統合を進めやすい。小規模事務所では、所長先生の考え方や職員との関係性が事務所運営に強く反映されている。そのぶん、数字や資料だけでは分からない空気感がある。だからこそ、書面上の条件だけではなく、実際に会い、話し、相手の考え方を理解するプロセスが重要になる。

京都税理士法人では、承継後の統合を現場任せにするのではなく、江後先生自身が譲渡側と直接コミュニケーションを取りながら進めることを重視している。条件が合うかどうかだけでなく、安心して託せる相手であるかどうか。その確認を丁寧に重ねることが、よい承継の入り口になる。

承継直後は、変える前に理解する

承継後の統合において、京都税理士法人が大切にしているのが、承継直後に無理に変えすぎないという姿勢である。M&Aによって経営者が変わるだけでも、職員にとっては大きな変化である。そこに加えて、会計システム、給与体系、業務フロー、評価制度などが短期間で一気に変われば、不安や戸惑いが生じやすい。

そのため、案件や事務所の状況にもよるが、 承継後すぐに既存の運営を大きく変えるのではなく、一定期間はこれまでのやり方を尊重することが重要になる。職員や顧問先が安心できる時間を設けながら、段階的に体制を整えていくことが、ソフトランディングには欠かせない。

もちろん、すべてをそのまま維持するという意味ではない。必要な改善やリスク対応は行いながらも、まずは関係性を築き、現場の状況を 見極める。そのうえで、無理のない形で統合を進めることが、職員の安心、顧問先の継続、事務所運営の安定につながる。

人を育てる文化が、 受け入れの土台になる

京都税理士法人は、長年にわたり新卒採用を中心に人材を育ててきた。監査担当者の多くが新卒入社であり、管理職も生え抜きの人材が中心である。若い職員が多く、組織としての文化を共有しやすいことは、同法人の大きな特徴のひとつである。

一方で、M&Aによって外部の事務所を引き継ぐ場合には、これまでとは異なる文化を持つ職員を受け入れることになる。新卒採用とは違い、中途で加わる職員には、前事務所で培われた仕事の進め方や価値観がある。その違いを一方的に変えようとするのではなく、相手の文化を理解しながら、時間をかけて融合していく姿勢が求められる。

江後先生は、組織づくりにおいてコミュニケーションの重要性を強く意識している。制度やシステムだけで統合は進まない。最終的に事務所を支えるのは、そこで働く人たちの納得感と信頼関係である。

条件だけではなく、 双方にとってよい縁を

江後先生は、無理な譲受は避けるべきだと考えている。地域が合う、規模が合う、価格が合うというだけでは、よい承継にはならない。譲渡側の先生、職員、顧問先、そして譲受側の法人にとって、双方が納得できる形であることが重要である。

特に京都のような地域では、人と人とのつながりや信頼関係が大きな意味を持つ。外部から一方的に条件を提示して進めるのではなく、時間をかけて関係性を築き、相手の思いを理解したうえで進めることが、結果としてよい承継につながる。会計ソフトや業務フローについても、 譲受側のやり方を一方的に押し付けるのではなく、譲渡側の状況に応じて柔軟に対応する考え方を持っている。こうした姿勢は、譲渡を検討する所長先生にとって、大きな安心感につなが るだろう。

人を大切にする承継が、 事務所の未来をつくる

会計事務所M&Aは、契約の成立がゴールではない。むしろ、契約後に職員が安心して働き続け、顧問先との関係を維持し、事務所の価値を次世代へつないでいくことこそが本当の目的である。 

京都税理士法人の考え方は、成長戦略と人を大切にする姿勢を両立させるものだ。京都・大阪・滋賀という地域に根ざし、無理のない範囲で承継を進め、最初から大きく変えすぎず、時間をかけて文化を融合させる。その姿勢は、会計事務所M&Aにおける譲受側のひとつのあり方を示している。

譲渡を考える所長先生にとって、自分の事務所を誰に託すかは極めて重要な判断である。だからこそ、譲受側がどのような姿勢で人を守り、文化を受け継ぎ、顧問先との信頼をつないでいくのかを見極めることが大切だ。人を大切にする承継が、事務所の未来をつくる。京都税理士 法人・江後慎太郎先生の言葉からは、地域に根ざした会計事務所M&Aの本質が見えてくる。

江後慎太郎先生

江後慎太郎(えご・しんたろう)

京都市南区に本拠を置く京都税理士法人の代表社員税理士。江後経営グループとして、会計・税務に加え、労務・人事、行政手続き、外国人技能実習生 支援などを含めたトータルサポートを展開。経営理念に「顧客の繁栄なくして我がグループの存在なし」「社員の幸福を実現し、地域社会に貢献する」 を掲げ、地域企業の成長と発展を支援している。

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